周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
労働問題について
第2、今週のテーマ
解雇
第3、目次
(1)経歴詐称を理由とする解雇の可否について
(2)経歴詐称を理由とする解雇に関する裁判例
(3)職務怠慢を理由とする解雇の可否について
(4)職務怠慢を理由とする解雇に関する裁判例
(5)能力不足を理由とする解雇の可否について
(6)能力不足を理由とする解雇に関する裁判例
放送日 | 2017年7月18日 |
---|---|
ゲスト | 畠山大地 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
普通解雇,解雇権濫用法理,経歴詐称,職務怠慢,能力不足 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回も引き続き,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の第3週目の今回は,前回に続いて解雇についてお話いただきたいと思います。
今回のゲストは、前回に引き続き,札幌弁護士会に所属の畠山大地(はたけやまだいち)弁護士です。
畠山:よろしくお願いします。
―先週は,時事ネタというか,解雇の金銭解決制度に関する現在の議論状況について話してもらったんですよね。
今週は,時事ネタから少し離れることになるでしょうか。
畠山:そうですね。
一口に解雇といっても,実際には色々なケースがあり得るので,その辺りについて話していきたいと思います。
―では、早速行ってみましょうか?
畠山:行きましょう!
第1、経歴詐称を理由とする解雇の可否について
―では,1つめの質問です。経歴詐称がバレてしまった男性の方です。
「私はこれまでとある企業で働いていました。
私は日本生れの日本人で,海外に行ったことも一度もないのですが,下の名前が,外国人の名前だとしても違和感がない名前で,顔立ちもちょっとハーフっぽかったため,勤務先には,採用時に,日本人とアイルランド系アメリカ人のハーフでー,帰国子女でー,外資系の企業で経験があってー,などと嘘をついていました。
ところが,こうした経歴が全て嘘であることが会社にバレてしまい,そのことが理由で会社から解雇されてしまいました。
嘘をついていた自分が悪いのは重々承知なのですが,何とか解雇を争うことはできないでしょうか。」
畠山:なるほど。
顔の整形はしていないようですが,何だか少し前にテレビで聞いたような話ですねー。
―採用の時にバレそうな感じもしますが・・・・(笑)。
つまり、経歴詐称をしていて,それがバレてクビにされてしまった,ということのようですが、このような解雇は有効なんでしょうか?
自業自得とも思えるし、一方で解雇まではかわいそうかな~、とも思います。
畠山:まずおさらいですが,解雇の有効性の考え方については,第6回の放送で,桑島弁護士の解説がありましたね。
―そうですね。
そのときの話では,解雇権濫用法理というものがあって,解雇の必要性と社会的相当性で判断される,要するに解雇されても仕方ないといえるような事情があるか,ということでした。
今回の事案の場合、経歴を詐称した部分も多いし,そんな嘘をつく人は、これからも嘘の報告をしてくる可能性もあるし、同僚の従業員も一緒に仕事をしていくことが難しくなっていく気がするので、どちらかといえば、解雇の必要性はありとなりそうな気もしますが,どうなんでしょうか?
第2、経歴詐称を理由とする解雇に関する裁判例
畠山:経歴詐称の場合は懲戒事由なので,懲戒解雇として有効かどうか,という話になりますね。
判例があるんですが,そこでは,経歴詐称は労働力の評価を誤らせて,会社と従業員の信頼関係や賃金体系・人事管理を混乱させる危険がありますよと,そのため,具体的な実害の発生を問うことなく企業秩序違反となって,懲戒事由に該当する,とされています。
他方で,地方裁判所の裁判例ですが,会社側が真実を知っていたらその従業員を採用しなかっただろうという因果関係がある場合に限られる,という見方もあります。
考え方としては,真実を知っていたら採用しなかっただろうといえるかどうか,というのが分かりやすいでしょうね。
―なるほど。
実際に経歴詐称が問題になったケースとしては,どのようなものがあるんでしょうか。
畠山:学歴の詐称は,学歴が採用の重要な要素や条件になっているケースでは,解雇が有効にとされているものが多いですね。
職歴の詐称も,解雇が有効とされたものが多いですね。タクシー運転手の経験者であることを隠していたケースで,解雇が有効とされたものもあります。どちらも,真実を知っていたら採用しなかった場合といえますね。
今回の質問のケースは,経歴と仕事の関連性は不明ですが,出身や学歴,職歴など,詐称の範囲が非常に広いので,解雇が有効となる可能性が高いですね。
―やっぱり,履歴書や採用面接では,ありのままの経歴を見せるべきなんですね。
第3、職務怠慢を理由とする解雇の可否について
―それでは,次の質問です。今度は会社経営者の方からの質問ですね。
「私は不動産会社を経営しています。お会いした方の印象に残るように少し変わった髪形をしているのですが,よくカツラではないかと疑われます。まあそれは良いんですが,会社は一体感が大事ですから,従業員には「忠誠を求める。誠実な忠誠だ。」といつも言っているんです。」
畠山:どこかの国の金髪の偉い人みたいですね。
―そうですねー,続けます。
「先日,我が社のある従業員が勤務時間中,「誠実に仕事するけど,忠誠なんて誓いませーん」などと談笑しながらコーヒーを飲んでサボっていたのです!
それで,私は頭にきて,「呑気にくっちゃべってサボりおって!お前はクビだ!」と言って,すぐにその従業員を解雇しました。
畠山:頭にきて,すぐに解雇しちゃったんですか。
頭に血が昇りやすい社長さんなんですね。
―そうみたいですねー。続けます。
「その従業員は納得していないようで,真実を証言するとか何とか言っているんですが,この解雇は有効ですよね?」
ということです。要するに,勤務時間中に怠けていたので解雇した,ということのようですね。
畠山:今の感じだと,社長さん自身は,解雇して当然だと思ってそうですね。
―勤務時間中につい気が抜けてしまうことは誰にでも多少はあることだと思うのですが,これだけで解雇になってしまうというのは可愛そうな気がしますねー。
畠山:職務怠慢を理由とする解雇については,上司から何度も注意されていたのに反省の姿勢を示さず、注意された行動を改善する様子が認められないような場合には,懲戒解雇が有効とされることもあります。
改善の余地がないかどうかについては,会社の主観的な評価だけでなく,それまでの職務怠慢の内容や本人の対応などから,客観的に判断するべきでしょうね。
―あんまり怠け過ぎちゃうと,クビになっちゃう可能性もあるんですねー。
実際に問題になったケースはあるんでしょうか。
第4、職務怠慢を理由とする解雇に関する裁判例
畠山:地方裁判所の裁判例では,製薬会社の外商員のケースで,決められた得意先訪問ルートの指示に従わないことを上司から何度も注意されていたことや,勤務時間中に喫茶店に立ち寄って長時間仕事をサボっていたことなどを理由として,懲戒解雇を有効としたケースがあります。
他方で,今回のケースは,一度の怠慢で直ちにクビにされたということでしょうし,そのサボり方に関しても,非常にひどいというものではないでしょうから,他に特に事情がなければ,解雇は無効とされる可能性が高いですね。
―やっぱり,ちょっとでも怠けたらすぐ解雇,とはならないんですね。
第5、能力不足を理由とする解雇の可否について
―次の質問です。女性の方からの質問ですね。
「私はとある企業で働くバリバリのキャリアウーマンです。以前は別の会社で数年働いていて,評価も割と良い方だったのですが,自分のキャリアアップを目指して,思い切って,外資系の同業他社に転職しました。」
畠山:男性・女性問わず,キャリアアップを目指して転職する人,増えている気がしますね。
―そんな感じがしますねー。続けます。
「ところが,転職してみると,会社の要求水準が高く,同僚が優秀な人ばかりで,社内の評価もかなり下の方になってしまいました。会社の利益にもあまり貢献できていなかったと思います。
そうこうしているうちに,会社の人事の人から,求めていた能力を有していないように見えるから,このままだと解雇も考えないといけない,と言われてしまったのです。」
畠山:ずいぶん厳しい会社のようですね。
それでどうなったのですか。
―はい,続けます。
「確かに,この会社の従業員のレベルは高く,私は実力不足だったのかもしれませんが,だからといってこのまま解雇されるというのは納得できません。
もし解雇されてしまったら,その解雇は有効なんでしょうか。」
というものです。うーん,やっぱり外資系の企業って,生き馬の目を抜く,みたいな感じで,競争が激しそうですよねー。
要するに,能力不足を理由とした解雇,ということのようですが,こうしたタイプの解雇が有効かどうかって,どのような判断されるのでしょう?
畠山:大手や外資系に限らず,能力不足を理由とする解雇は非常に多いですね。
就業規則の解雇事由では,「労働能力が劣り,向上の見込みがないこと」などと定められていることが多いです。
それで,能力が少しでも足りなかったら即解雇,となるかというと,中々そうはなりません。もう少し,色々な事情が検討されないといけないんですね。
―そもそも,能力が不足しているのか,不足しているとしてそれがどの程度なのかって,どう考えたら良いんでしょう?
畠山:能力不足を理由とする解雇では,能力が不足しているかどうかを検討する前提として,どのような能力が必要とされていたのかを考えないといけません。
労働契約上,その従業員に要求されている職務能力のレベルがどの程度のものだったのかを考えないといけないんですね。
その上で,その能力不足が,労働契約を継続することを期待し難いほど重大なものであるか否かを検討することになりますね。
―なるほど。
ただ,実際に能力不足があったとしても,会社が指導・教育をして能力アップを図ったり,他に本人に向いてる部署があるなら,そこに異動させるとかすれば,能力不足の問題は解消しますよね。
会社側には,そうした措置をとる義務はないんですか?
畠山:会社側の雇用維持義務や,解雇回避措置などと呼ばれる話ですね。
その点は,その人に求められていた能力水準やポストなどとも関連してくると思います。
成果主義制度が導入されていて,高い成果を出すことが求められるような管理職や,高度な職務遂行能力が求められる専門職の場合を考えてみましょう。
―成果主義とか能力主義とか,そういうニュアンスが強い人たちですね。
その場合はどうなるんでしょう。
畠山:この場合はやはり,能力不足や成績不良について,一般的な従業員よりも厳しく判定されます。もちろん,会社の方でも,事前に注意や指導をするなど,雇用継続の努力は必要にはなると思いますが,能力不足の程度が著しい場合は,雇用を維持する義務は大きく低下します。
その結果,能力アップの機会を与えずに解雇したとしても,有効とされる可能性は高いでしょうね。それから,地位や職種を特定されて中途採用された管理職や専門職の場合は,今の話がより一層妥当すると思います。
―やはり責任ある立場に就く以上,そうした場面でも厳しく見られちゃうんですねー。
逆に,そういう人じゃない場合,終身雇用とか,それに近い雇用システムの会社に新卒で入った若手や中堅の従業員の場合は,どうなんですか?
畠山:その場合は,会社側の雇用を維持する義務は簡単には下がりませんから,先ほどのような人たちのケースとは違った考え方になるでしょうね。
つまり,解雇っていうのはやっぱり最後の手段ですから,会社側は解雇回避措置としてどんなことをしてきたんですかっていうことが問題になるわけです。
なので,解雇が有効とされるには,指導・教育・研修などを繰り返しても中々解決できないくらい能力が不足していて,仕事をしていく上で支障が生じている,といった状態にあることが必要と考えられています。
―なるほど。他にも部署移動なども考えられますよね。
畠山:そうですね。
能力不足が著しい場合でも,部署異動などをすることで,その従業員の能力を向上させて活用する余地があるなら,そうした措置を採ることで雇用を維持する努力が求められます。
―なるほどー。やっぱり解雇はあくまで最後の手段ですよね。
あとは,従業員側の言い分が考慮される場面は,あるんですかね?
同じくらい成績が悪いあの人はクビになっていない!とか,何のアナウンスもなく突然解雇された!とか。
畠山:それは解雇の社会的相当性の話とされていますね。その従業員に有利になり得るあらゆる事情を考慮するべきとされています。
会社側に実は別の不当な目的・動機がなかったかとか,他の労働者の処分とのバランスはどうかとか,本人との話合いの機会を設けたり,本人に弁明の機会を与えたか,といった事情ですね。
―解雇が最終手段だとされている以上,やはり色々な事情が考慮されるんですねー。
この話は,裁判例もたくさんありそうですね。
第6、能力不足を理由とする解雇に関する裁判例
畠山:裁判例はたくさんありますが,有名なものとして,例えば,ゲーム会社の従業員の事件があります。
この事件の従業員というのは,大学院を卒業してこの会社に就職し,外注,外部からの受注ですね,の管理をする仕事などをしていたんですが,会社の評価の順位が従業員の中で下の方の10%未満の位置だったんですね。
で,仕事をこなせるだけの英語力もなくて,実際に苦情を受けたこともあったと。
―それで,会社が能力不足を理由に解雇したということなんですかね。
裁判所はどんな判断をしたんですか?
畠山:まず,能力不足の点について,平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないときじゃないといけない,としています。
その上で,本人の成績順位はかなり下の方ではあるものの,その評価は相対評価であって絶対評価ではないので,直ちに,労働能率が著しく劣り,向上の見込みがないとはいえない,としています。
また,もっと体系的な指導・教育を実施することで,能力アップを図る余地があったといえるし,部署異動などによって雇用を維持するための努力を会社はしていない,としています。
結論として,正当な解雇とはいえない,としていますね。
今回の質問については,どのようなポストに転職したのか,業務の内容,能力不足とされる程度,解雇回避措置の内容などを検討する必要があると思います。
―最近は,成果主義とか,雇用の流動性とか,働き方が変わってきているみたいですから,能力や成績をめぐるトラブルも,ひょっとしたら増えてくるのかもしれないですねー。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士畠山大地(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士畠山大地(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年7月18日