周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
民法改正について
第2、目次
(1)民法改正とは
(2)隔地者間の契約の成立
(3)法定利率
放送日 | 2017年9月5日 |
---|---|
ゲスト | 村本耕大 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
民法改正,契約の成立,法定利率,法定利息,金利水準,3パーセント,変動制,商事法定利率 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で,民法改正について取り上げています。
第1週目のゲストは,札幌弁護士会に所属の村本耕大(むらもとこうた)さんです。
村本:よろしくお願いします。
第1 民法改正とは
―さて,早速本日のテーマに入っていきたいと思います。最近,新聞やニュースで民法改正という言葉をよく耳にしますが,そもそも民法の改正が話題になっているのってどうしてなんですか。
村本:民法という法律はご存じのとおり,売買契約,賃貸借契約,雇用契約等が規定されており,一般の市民のみなさんが生活をする上で避けることは出来ない,最も身近な法律です。現在の民法が作られたのは明治時代ですので,それ以来,約120年ぶりに抜本的に見直されることになりました。改正項目は200項目にも及びます。
―120年ぶりですか。明治時代というと,もちろん,携帯電話,コンピューターなどはありませんし,現在,私たちが暮らしている世界とは全く違う世界ですよね。そんな昔に作られた法律を現在までずっと使っていたんですね。
村本:そうなんです。ご存じのとおり,120年の間に時代は大きく変わっています。これまで,判例と呼ばれる最高裁判所の判断が変更されたり,時代に合うように法律の解釈を修正しながら使ってきました。また,法律の文体を口語化したり,部分的に改正したこともあります。
今回の改正は,今までの判例の積み重ねを明文化したものや,時代の流れに沿わなくなった部分を修正した,民法制定以来の大改正といえるものなんですよ。
―そうなんですか。時代の流れに沿わなくなったっていうのは,例えば,どういうことがあるんですか。
第2 隔地者間の契約の成立
村本:じゃあ,離れたところにいる人同士の契約の成立,つまり,お互いが目の前にいない人同士の契約について考えてみましょう。
契約の成立は,申し込みと承諾によって成立することとされています。わかりやすく言うと,一方が「このような内容で契約しましょう」と申し込みをして,もう一方が「わかりました」と返事をすることで契約は成立します。
ここで一つポイントがあるのですが,現行の民法だと「わかりました」っていう返事を出した時点で契約が成立することとされていたんです。
―えっ,そうなんですか。相手に返事が届く前に契約が成立するなんて,変な感じがしますね。
村本:民法が制定された明治時代は,離れたところにいる人同士のやり取りは,郵便で行われることがほとんどだったと思います。明治時代だと,現在の郵便よりも到着まで,かなりの日数が掛かったわけです。そこで,当時は取引を迅速に進めるために,「わかりました」という返事を出したときに契約が成立することとしていたんです。
―なるほど,そういう事情があったんですね。今は返事を早く相手に伝えようと思えば,メールやファックスなどの手段があるので,だいぶ事情が変わってきそうですね。
村本:おっしゃる通りです。現代は通信手段が発達しており,メールやファックスを用いれば,発信と到達の間を短縮することができるので,現行民法のように,「わかりました」という返事を出したときに契約が成立するという仕組みをとる必要はないと考えられます。
そこで,今回の民法改正で,返事が相手に届いた時に,契約が成立することになると改正されたのです。
―そうなんですね。そういわれてみると,明治時代に作られた法律だと,現代社会には合っていないということが,他にもたくさんありそうですね。
ところで,改正された民法はもう施行されているんですか?
村本:いいえ,まだ施行されていません。今年の5月26日に民法を改正する法案が成立し,6月2日に公布されました。公布から3年以内に施行されることになっています。
―そうなんですか,じゃあ法律の施行まではまだ少し期間がありそうですね。その間に私たちも新しい民法の内容を勉強しておかなければいけませんね。
では,具体的に,民法改正の中で,私たちの暮らしに影響があるところって,どのようなものがあるのでしょうか。
村本:先に述べたように民法改正の項目は多岐にわたるのですが,その中でも,特に一般の市民の方にも影響がありそうな4つのテーマについて,今週から4週にわたって取り上げていくことにします。法定利率,消滅時効,保証人,定型約款の4点です。
まず,今回は,法定利率についてお話していきます。
第3 法定利率
―よろしくお願いします。まず,法定利率ってそもそもどのようなものでしょうか。
村本:法定利率というのは,法律によって定められた利率のことを言います。たとえば,お金を借りるときに,利息をつけることは決めたけど,その割合を決めなかったというときに適用されるのが法定利率です。
―そうなんですか。でも,お金を借りるときに,利息を付けることを決めた時には,普通その割合も決めますよね。法定利率が問題になる場合っていうのは少ないような気がします。他に法定利率が適用される場面としてどのようなものがありますか。
村本:そうですね,民法では法律によって利息が発生する場合をいくつか定めています。これを法定利息といいますが,この法定利息の割合も法定利率によることになっています。
―法定利率と法定利息は違うものなんですか・・・。話が複雑になってきましたね。法定利息の具体例としてはどのようなものがあるんですか。
村本:例えば,商品の売買契約が解除されたときを考えてみましょう。商品を買った人は受け取ったものを返すことになりますが,商品を売った人は受け取ったお金に利息を付けて返さなければならないとされています。これが法定利息の一例です。
―なるほど。ちょっと素朴な疑問なんですが,その例だと商品を買った人は商品をそのまま返すだけでいいのに,お金を受け取った人は利息をつけて返さなければいけないのはなぜなんですか。
村本:お金っていうのは,置いておくだけで価値を生み出すものだと考えられています。例えば,お金があれば株式に投資をしたり,運用によって価値を増やすことができますし,極端な話でいえば,銀行に預金を預けておくだけで,ちょびっとですが利息が付きますよね。
だからお金を受け取った人が,契約の解除によってお金を返す時は,その期間の分の利息を付けなければならないこととされているんです。
ただ,商品を返す人も,解除までの期間中,その商品を使うことができたという利益があり,その両者は同時に履行されるべきものと考えられますので,お金を返す方が利息を払わなければならないのは,先に商品を返してもらったにも拘わらず,お金を返すのが遅くなったという場合になりますね。
―なるほど,そう言われてみると,確かにその通りですね。
では,法定利率のところに話を戻しますが,現行の民法では,法定利率は何パーセントとされているんですか。
村本:年5パーセントとされています。
―年5パーセントですか。銀行にお金を預けておいても年5パーセントも利息は付かないですよね。少し高すぎるような気もしますが,そもそもどうして年5パーセントの利率になったのでしょうか。
村本:それは法律が定められた時の,市場経済の金利の水準を参考にして定められたのです。ただ,田島さんがおっしゃったように,現代の金利水準からすると5パーセントは高すぎますよね。また,バブル期の金利は8パーセントくらいにもなったという話も聞いたことがあります。その時は逆に5パーセントの金利では低すぎるということになるでしょう。
要するに金利っていうのは,その時の景気,市場経済の状況によって変動するものなんですね。ですから,法定利率もそれに合わせることが適切だと考えられます。
―なんだか,経済の話みたくなってきましたね。それでは改正民法では法定利率はどのように定めることになったのでしょうか。
村本:年3パーセントにすることになりました。そのうえで,3年ごとに法定利率を見直す変動制を採用することとされました。
―なるほど,それでは,将来の日本の景気次第で,3パーセントより高くなるかもしれないし,低くなるかもしれないっていうことですね。計算が面倒な気もしますが,経済の状況に合わせるっていう意味ではその方法が一番かもしれないですね。
村本:そうですね。あと,他に法定利率に関して気を付けなければいけないことでは,商事法定利率の6パーセントという定めも撤廃されることになりました。
―商事法定利率ですか。難しい言葉ですが,どのような意味でしょうか。
村本:大雑把に説明すると,会社同士のお金の貸し借りなど,商人同士の取引に適用される利率を商事法定利率といいます。これまで,商事法定利率は6パーセントとされていましたが,民法改正に合わせて撤廃されて,民法の法定利率の3パーセントに統一されることになりました。会社をやっている人は気を付けなければいけませんね。
―なるほど,会社間の取引の利率も民法の規定と同じになったということで,覚えやすくなりましたね。勉強になりました。
残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。今日は民法改正のうち,法定利率の改正についてお話を聞くことができました。来週のテーマは,消滅時効についてです。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年9月5日