周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
民法改正について
第2、目次
(1)消滅時効の期間
(2)時効の「更新」と時効の「完成猶予」
(3)時効の援用
放送日 | 2017年9月12日 |
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ゲスト | 福田光宏 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
民法改正、時効、消滅時効、短期消滅時効、時効の中断、時効の更新、時効の停止、時効の完成猶予、承認、催告、時効の援用 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で、民法改正について取り上げています。
第2週目のゲストは、札幌弁護士会に所属の福田光宏(ふくだみつひろ)さんです。
福田:よろしくお願いします。
―では、自己紹介をお願いします。
福田:札幌弁護士会所属の、弁護士の福田光宏といいます。司法修習で1年間青森に住んでいましたが、生まれも育ちも北海道です。先週出演していた村本弁護士とは、大学生のときからの付き合いになります。お互い独身ということもあり、たまに飲みに行ったりします。
本日はよろしくお願いいたします。
―さて、前回は、民法が改正されるに当たり、リスナーの皆様にも影響がありそうなテーマとして、法定利率、消滅時効、保証人、定型約款の4つを挙げていただきました。今回はそのうち、消滅時効についてです。
第1 消滅時効の期間
―時効っていう言葉自体は聞いたことはあるのですが、どういう制度なのですか。
福田:時効という言葉は、皆さん聞いたことがあるかも知れません。時効というのは、ある事実関係が継続したときに、その事実状態を真実の事実状態として、権利関係を確定させる制度、なんて言われています。聞いていて全然わからない説明ですよね(笑)。
―全然、わかりません(笑)。
福田:そうですよね。
消滅時効というのは、ある権利を持っている人が、一定の期間権利を行使しないでいると、その権利を失ってしまうという制度、つまり、お金の請求などをサボっていると、いつか回収する権利を失ってしまいますよ、という制度です。
今日は、消滅時効ってどんな制度なのか、民法の改正によりどのように変わるのかなどの点について、一つ簡単な例を想定して、それに沿って説明していきたいと思います。
―はい。よろしくお願いいたします。
福田:このようなケースで考えて見ましょう。平成29年9月12日に、AさんがBさんに50万円貸しました。返済期日は、平成29年の大晦日、つまり12月31日という約束でした。このようなケースを想定してみましょう。
当然ですけど、Aさんは、Bさんから50万円を返してもらう権利を持っていますよね。でも、AさんがBさんに対して何の請求もせずに一定期間放っておくと、Aさんは返してもらう権利を失ってしまう場合があるのです。これが消滅時効です。
―えー!貸したお金を返してもらえなくなるのですか。納得いかないですね。
福田:確かに、そのように感じる方は多いかもしれないですね。この時効という制度に関して は、お金を返せという権利を行使できたはずなのに、それをせずに放置していた人は法的に保護しないなんて説明されていますけど・・・
―うーん、やはり納得いかないですね。
話を元に戻します。
どういう場合に、お金を返してもらえなくなってしまうのですか。
福田:まずは、改正される前の民法ではどうなっていたかを説明しますね。改正前の民法では、権利を行使することができる時から10年権利を行使しないときとされていました。
―なるほど。「権利を行使することができる時から10年」ですか。
まず、「権利を行使することができる時」って、いつからになるのですか。
福田:わかりにくいですよね。
「権利を行使できる時」というのは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなったとき、というふうに説明されています。
―「法律上の障害がなくなった」って、余計に難しくなったような気が。笑
福田:ですよね。笑
あまり言葉にとらわれずに、先ほどの例で考えてみましょうか。
先ほどの例でいうと、AさんとBさんは、「平成29年の大晦日にお金を返すよ」という約束をしています。その約束の日が来る前、たとえば、クリスマスの12月25日に、お金を返して、と言っても、約束した返済期日である12月31日が来ていないので、お金は返してもらえないわけです。この場合、法律上の障害があることになります。でも、12月31日になったら、約束の返済期日が来たのですから、お金を返せと言えますよね。法律上の障害がなくなったことになります。ですから、「権利を行使することができる時」になるわけです。
なので、さきほどの例では、平成29年12月31日から10年権利を行使せずにいると、AさんがBさんからお金を返してもらう権利は消滅してしまうことになります。
―返済日から10年なら、時間はたっぷりあるような気がしますね。
福田:今の例は個人間のお金の貸し借りの話なので時効は10年ですが、改正前の民法では、実はどのような権利かによって時効期間は違っていたんです。
―あ、全部10年というわけではないんですね。
福田:はい。改正前の民法は、権利の種類によって異なる期間を定めていました。
たとえば、旅館の宿泊料金や、居酒屋などでの飲食代を請求する権利は1年、我々弁護士が報酬を請求する権利は2年、お医者さんが診療行為の報酬を請求する権利は3年で時効により消滅するとされていたのです。
短期消滅時効っていうんですけど。
―そうなんですか。権利の種類によって様々な時効期間が定められていたのですね。弁護士の報酬を請求する権利の方が、お医者さんの権利より短いのですね。
福田:そうなんですよ。何でなんでしょうね。笑
まあ、居酒屋さんのツケは1年で消滅してしまったのですから、それよりは長いということで満足します。
これが、改正される前の民法の話です。今回の民法改正により、この消滅時効の期間が 大きく変わるんです。
―さて、どのように変わるんでしょうか?
福田:今回の改正の最も大きな点は、消滅時効の期間が統一化されたことです。権利の種類によって、1年とか2年とか3年とか10年とか、ばらばらだった消滅時効の期間が、原則として、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき、というふうに改正されました。
―権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年、ですか・・・また、わかりづらい。
福田:権利を行使できるときからというのは、改正前のところで説明したように、法律上の障害がなくなったとき、先ほどの例では、返済期限が来たとき、つまり今年の大晦日です。
他方で、改正によって、新しく、権利を行使できることを知った時から5年、という期間が制定されました。
―その2つは何が違うのですか。
福田:「権利を行使できる時」というのは、権利者が、権利を行使できることを知らなくていいのです。先ほどの例でいいますと、平成29年12月31日が来ていればよく、そこから10年で時効になるのです。
これに対して、権利を行使できることを知った時といえるためには、Aさんが、平成29年12月31日が来たから、Bさんから対してお金を返してもらえる、ということを知らないとダメなのです。Aさんがそのことを知ったときから5年で時効になるのです。
―なるほど。Aさんが、権利を行使できることを知っているか知らないかで時効の期間が変わるということですね。
理屈としてはわかりましたが・・・
福田:おっしゃりたいことはわかります笑。
返済期日が来て権利が行使できるようになったのに、Aさんがそのことを知らないなんてことがあるのかって話ですよね。
―ええ。
福田:確かに、現実的には、あまり想定できないかも知れないですね。
特に、多くの方にとって身近な問題となりそうな、お金の貸し借りの問題では。
なので、5年の時効が適用されるケースが多いのではないでしょうか。
―そうですよね。まずは、全部のケースではないけど、多くの場合5年で時効になる可能性が高いということを頭に置いておくといいかも知れないですね。
福田:そうですね。
すべての権利に5年という消滅時効の期間が当てはまるわけではなく、当然例外もあるのですが、それらすべてを覚えるのは大変だと思いますので、まずは、消滅時効は5年が原則だけど例外もある、くらいでいいかも知れませんね。
ただ、時効期間が5年より短い権利もありますので、そこは注意が必要です。
―なるほど。時効は原則5年だよ、でも例外もあるよ、5年よりも短い権利もあるから注意が必要だよ、っていう感じですか。
福田:そんな感じです。
たとえば、不法行為に基づく損害賠償請求権というものがあるのですが、損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは時効により消滅すると規定されています。不貞行為に対する慰謝料請求なんかがこれに当たります。
第2 時効の「更新」と時効の「完成猶予」
―さて、一定の期間権利を行使しなければ、消滅してしまうということはわかりました。
では、権利が時効により消滅してしまわないようには、どうすればよいのでしょうか。
福田:そうですね、当然、時効の完成を防ぐ制度もあります。大きく分けると2種類ですね。
まず、ある事由が発生した場合に、それまで経過した時効期間の効力が失われ、新たに時効期間が進行する制度があります。改正前の民法では、時効の「中断」と言われていたのですが、改正後は、時効の「更新」と言うようになります。
また、ある事由が発生した場合に、一定期間時効の完成を猶予する制度があります。改正前は時効の「停止」と言われていたのですが、改正後は時効の「完成猶予」と言われるようになります。
―時効の「更新」と時効の「完成猶予」ですか。詳しく教えていただけますか。
福田:時効の「更新」でわかりやすいのは、裁判上の請求でしょうか。お金を返せ、という裁判をして、その結果、お金を返しなさい、という勝訴判決を得たとしますよね。その場合は、それまでの期間がリセットされます。判決が確定したときから、新たに消滅時効の期間が経過しなければ時効は完成しません。
―裁判ですか。そこまでしないといけないのですか。
福田:確かに、裁判をしようとすると、手間も時間も費用もかかってしまいますね。
このほかにも、承認といって、相手方が債務の存在を認めた場合にも、そのときから新たに時効期間が進行します。
―認めるだけでいいのですか。
福田:相手が、お金を借りていることは間違いありませんと認めるのはもちろんのこと、「ごめん今はお金なくて返せないけど、いついつまでに返すから」とか、「ごめん一括じゃ返せないけど分割にしてくれない?」というような、債務があることが前提となる発言も認めたことになり得ます。あとは、一部でも弁済してくれれば、それは債務があることを前提とした行為なので、承認にあたります。
―それは、ただ口頭で認めるだけでもよいのですか。
福田:口頭でもダメではないんですけど、後から言った言わないの水掛け論になったときに、相手が承認したぞっていうことが証明できないですよね。なので、念書とか借用書を作成しておく方がよいと思います。同じように、弁済をしてもらうときも、いつ貸したお金の弁済としていくら受領したのか形に残しておく方がよいと思います。後から、そのお金は全然違うときに借りたお金の弁済だとか言われたり、いやお金を返した覚えはないなんて言われて揉めないとも限りませんから。
―きちんと証拠として残しておくことが大切ですね。
福田:時効の「完成猶予」の例としては、「催告」が挙げられます。その名のとおり、お金を返せと相手に催告することです。催告してから6か月経過するまで、時効は完成しません。
時効の完成猶予という制度が登場するに場面というのがちょっとわかりにくいかも知れないですけど、極端な例を挙げると、もうすぐ時効が完成してしまう、でも、裁判をするには時間が足りない、どうしよう、となったときに、とりあえず催告をしておけば、6か月の猶予ができますので、その猶予期間中に裁判など時効の更新のための手続をとりましょうと、このような場面ですね。猶予期間中に何もしなければ、猶予期間が経過すると時効は完成してしまいます。
催告の場合も、内容証明郵便を送付するなどして、形に残しておくとよいでしょう。
―時効の完成猶予は、あくまで暫定的な措置と言うことですね。
福田:はい。この時効の完成猶予について、民法改正により、当事者間で、権利について協議をしましょうねという合意が書面でなされている場合には、時効の完成を猶予しますという規定が、新たに設けられています。
第3 時効の援用
―権利が時効により消滅してしまう前に、このような手段をとらなければならないということですね。
福田:そうですね。
それと、仮にこのような手段をとらずに消滅時効の期間が経過してしまっても、自動的に権利がなくなってしまうわけではないのです。時効の援用といって、「あなたの権利は時効によって消滅しているから、お金は返しませんよ!」という意思表示をしなければいけないのです。
ですから、消滅時効の期間が経過していても、相手が任意でお金を返してくれることは あります。
でもまあ、そんな人がどれだけいるか疑問です笑。なので、やはり権利が時効により消滅しないように気をつけましょう。
―残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。来週に続きます。
今日は民法改正のうち,消滅時効についてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士福田光宏(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士福田光宏(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年9月12日