周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
民法改正について
第2、目次
(1)いろいろな場面での保証人
(2)根保証
(3)公正証書の作成義務
(4)情報提供義務
放送日 | 2017年9月19日 |
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ゲスト | 福田光宏 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
民法改正、保証人、根保証、極度額、公正証書、事業資金、情報提供義務 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で、民法改正について取り上げています。
第3週目のゲストは、先週に引き続き、札幌弁護士会に所属の福田光宏(ふくだみつひろ)さんです。
福田:よろしくお願いします。
―札幌弁護士会の知恵袋は、ついに今回で第100回を迎えました。
どうですか、記念すべき第100回のゲストに選ばれた今の感想をお聞かせください。
福田:そうですね。
うれしいというか、ばつが悪いというか・・・。まずは、関係者の皆様に感謝したいと思います。
ざっくり言うと、1年間は50週ですから、満2周年ということですね。
ただ、120年ぶりに大改正を迎えた民法に比べれば、まだまだこれからという気もしますね。
―そうですね。
民法という一つの法律が100年以上も国民の役に立っていたということを考えると明治の時代にこの法律を作った人は素晴らしいな~、と改めて感じます。
さて、前回は、民法が改正されるに当たり、リスナーの皆様にも影響がありそうなテーマとして、消滅時効について取り上げました。
今週は、保証人についてでしたね。
第1 いろいろな場面での保証人
福田:田島さん。保証人というふうに聞くと、どのようなイメージが浮かんできますか。
―そうですねえ。誰かが借金をする際の保証人になってしまったばっかりに、自分も莫大な借金を抱えてしまう、なんていうちょっと怖いイメージがありますね。
福田:そうですね。誰かがお金を借りるときに、その保証人になるというイメージを持っている方は多いかも知れません。
実際の社会の中では、このほかにも、たとえば学生さんが部屋を借りるときに親御さんが保証人になることもあるでしょうし、奨学金を借りるときに保証人になることもあるでしょう。場合によっては、住宅ローンや自動車ローンを組むときに保証人が必要になることもあります。
このように、保証という制度は、その人の経済的な信用、返済能力を補う手段として、社会生活上、非常に重要な役割を果たしています。
―けっこういろいろな場面で保証人が登場しますね。
福田:その一方で、保証人が必ずしも想定していなかった多額の負債の支払いを求められて、生活の破綻に追い込まれてしまったり、最悪のケースでは自ら命を絶ってしまうというような、痛ましい事件も生じています。
借金の相談に来られる方の中には、自分で借りたお金ではなく、誰かの保証人になってしまったことが原因で負債を負ってしまい、自己破産を選択せざるを得なくなってしまった方が、少なからずいらっしゃいます。
―そうなんですか。重要な制度である一方で、人の人生を狂わせてしまうかも知れないものなんですね。
福田:はい。
そこで、今回の民法改正においては、特に個人の保証人をより一層保護する方策が盛り込まれました。
第2 根保証
―どのような方策が盛り込まれたのですか。
福田:まずは、根保証について、個人の保証人の保護が拡充されました。
―おや、また何やら難しいキーワードが登場しましたね。
「根保証」って、何ですか。
福田:当然、そうなりますよね笑。
根保証っていうのは、本来の債務者が債権者との間で、継続的に行う取引から生ずる債務を保証することをいいます。
―継続的に行う取引から生ずる債務を、ですか。
福田:はい。
貸金の場合を例にとってみましょうか。
田島さんが、とても恩のある大切な人から、「100万円借りたいんだけど保証人になってくれないかな。」と頼まれたとします。田島さんなら、どうされますか。
―断わります。
福田:・・・。
本当に恩のある大切な人で、もう命の恩人みたいな人からの頼みです笑。
―あ、断ったら、話が進まないんですよね笑。
そこまで大切な人なら、きっと自分で返してくれるでしょうし、最悪の場合は私が100万円を負担する覚悟で保証人になってしまうかも知れないです。
福田:通常の保証であれば、借りた本人が100万円を返済すれば、保証人が返済する必要はありません。また、借りた本人が返せなくても、保証人は100万円を返せばいいということになります。
―根保証だと、そうではないんですか。
福田:根保証というのは、継続的に行う取引から生ずる債務を保証するものです。根保証では、保証する限度額、極度額っていうんですけど、この極度額と、保証する期間を定めます。この期間の間であれば、極度額までの債務を保証しますよ、という内容になるんです。
―何かそれだと、さっきの100万円の保証とはだいぶ違う気がしますよ。
福田:そう、だいぶ違うんですよ。
たとえば、極度額が500万円と定めたとします。最初に借りた100万円は借りた本人がそれを返しました。でもその後新たに500万円借りました。それは返しませんでした。となった場合、田島さんは500万円返さないといけないんです。
最初に借りた100万円だけを保証するのではなく、保証の期間、極度額までの債務を保証するということなんです。
―100万円だと思って保証人になったけれども、それが実は根保証だったなんてことになったら、思っていたよりも遥かに大きな負債を負う可能性があるんですね。
福田:そう、根保証契約は、保証人にとってとても重い責任を負担させられる危険があるんです。
―重すぎます。ぜひ保護して欲しいです。
福田:なので、改正前の民法でも、極度額の定めがない契約は効力を生じないとするなどのルールが定められていて、保証人を保護していました。ですが、これは、お金を借りるなどの債務が保証の対象となっている場合に限られていたんです。
改正によって、お金を借りる場合の保証だけでなく、個人が保証人となる根保証契約一般に拡大されることになりました。
―お金を借りる以外の根保証契約って、あまり思いつかないですけど。
福田:たとえば、マンションの賃貸借契約なんかも、将来にわたって発生する賃料や、退去の際の原状回復費用などを負担する根保証契約といえます。借主が不注意で火事を起こしてしまい、家主や近隣住民に多大な被害を与えてしまった場合、一個人では負担しきれない責任を保証人が負うこともあり得ますよね。なので、お金の借入などを対象とするものに限らず、極度額の定めがない場合は無効とするなどのルールが適用されるようになるんです。
―なるほど、気をつけなきゃいけないのはお金の貸し借りだけではないんですね。
第3 公正証書の作成義務
福田:このほかにも、個人が保証人になる場合で、事業のための貸金債務を対象とする保証契約の場合には、保証契約の締結日前1か月以内に作成された公正証書で、保証人になろうとする人が、保証の義務を果たす意思を表示していなければ、保証契約は効力を生じないとされました。
事業資金を借り入れしたいんだけど保証人になってくれないかな、と頼まれて、それを引き受ける場合には、1か月以内に作成された「保証人としての義務を負いますよ」という内容の公正証書がないとダメだってことですね。
公正証書は、きちんとした手順で作成しないといけないのでけっこう手間ですし、費用もかかりますからね。軽い気持ちで頼んだり、引き受けたりしないようにということでしょうね。
―確かに、公正証書まで作成するのであれば、ちゃんと考えて引き受けてる感じはしますね。
福田:ただ、公正証書を作成しなくてもいい例外もあります。
本来の債務者が会社などの法人である場合で、その理事や取締役などが保証人となる場合や、本来の債務者と共同で事業を行っている個人や、本来の債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者が保証人となる場合です。
要するに、法人の債務をその法人の役員等が保証する場合や、本来の債務者と一緒に事業をしている人が保証する場合ですね。
第4 情報提供義務
―保証契約そのものが効力を生じないという制限以外にも、何か保証人を保護するためのものはありますか。
福田:あとは、保証人に対する情報提供義務が新たに定められました。
事業のための貸金債務を主たる債務とする保証や根保証を依頼するときは、その人に自分の財産状況についての情報を提供しなければいけないとされました。情報提供がされなかったり、誤った情報が提供され、誤解が生じたまま保証契約を締結してしまった場合には、債権者がそのことを知っていたか、知ることができたのであれば、保証人になった人は保証契約を取り消せることになりました。
また、保証人から債権者に対して、主たる債務の内容や返済状況について情報提供を求められるようになりました。
―なるほど。保証人になる人は、必要な情報を知ったうえで、保証人になるかどうかの判断ができるようにするためですね。
福田:保証人になるということは、非常に重い責任を負ってしまう可能性もあるので、保証人にはなったらダメですよ、と言うのは簡単です。でも、現実の社会生活においては、そうもいかない場面はあります。
少なくとも、保証契約の内容をよく把握しないまま保証人になってしまったとか、よく考えず軽い気持ちで引き受けてしまったとかいうことがないようにして欲しいです。
―残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。来週に続きます。
今日は民法改正のうち、保証人についてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士福田光宏(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士福田光宏(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年9月19日