周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
民法改正について
第2、目次
(1)定型約款とは
(2)定型取引とは
(3)定型約款による契約内容の補充
(4)定型約款の内容開示義務
(5)定型約款の変更
放送日 | 2017年9月26日 |
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ゲスト | 村本耕大 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
民法改正,約款,定型約款,定型取引,不特定多数,画一的,開示義務,損害賠償責任,定型約款の内容変更 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で,民法改正について取り上げています。本日はその最終回となります。
第4週目のゲストは,札幌弁護士会に所属の村本耕大(むらもとこうた)さんです。
村本:よろしくお願いします。
第1 定型約款とは
―さて,早速本日のテーマに入っていきたいと思います。今回は定型約款(ていけいやっかん)というテーマになります。ラジオをお聞きの方は漢字が頭に浮かばないかもしれませんね。
村本:定型とは定められた型(かた)と書き,約款とは約束の約に借款などの款(かん)という字を書きます。あまり見慣れない漢字かもしれません。
―まず,定型約款とはどのようなものを指すのでしょうか。約款という言葉自体,耳慣れない言葉ですが・・・。
村本:約款というのは,企業などが,多くの利用者との契約を定型的に処理するためにあらかじめ作成した契約条項をいいます。
私たちは普段生活している中で,実はたくさんの契約を結んでいます。例えば,みなさんが毎日仕事に行くために電車に乗っているのであれば電車の運行契約を結んでいますし,インターネットの通販で洋服を買ったとすれば売買契約を結んでいます。会社とは雇用契約を結んで働いたり,マンションは賃貸借契約を結んで住んでいますよね。
―そうですよね,自動車を買ったり,家を買ったり,大きな買い物をするときは契約を結ぶって意識しますけど,電車に乗る時や洋服を注文するときに契約を結んでいるなんて意識しないですよね。
村本:そうですね。
今回改正民法に規定されることとなった定型約款は,定型的,多数の取引に適用される約款のことを指します。
今まで民法には約款に関する記載はありませんでしたが,現代社会においては,企業などが大量の取引を効率的に行うために約款が多く用いられています。
その一方で田島さんがおっしゃったように,契約の内容を全く意識しないまま契約を結んでいる場合も少なくないため,きちんと民法に規定しましょう,ということになったわけです。
―なるほど,約款が必要になったのも,社会が発達して,大企業が多くの市民と契約を結ぶことになったからだと言えそうですね。では,今回民法に規定されることになった約款とはどのようなものを指すのかを教えてください。
第2 定型取引とは
村本:今回民法に規定されることになったのは,約款のうち,定型約款と呼ばれるものです。定型約款の対象となる契約のことを定型取引といいますが,定型取引についてどのように法律に規定されているかというと,「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」を指します。
―うーん,定義が抽象的で頭に思い浮かばないですね・・・。少し具体例で紹介してもらえますか。
村本:例えば,先ほど述べた電車の運行契約は定型取引と言えます。これは電車に乗る人が不特定多数で,提供されるサービスも電車に乗って目的地まで行くという画一的なものだからです。同じような理由で,携帯電話の利用契約,銀行への預金契約,パソコンのソフトの使用契約なども定型取引にあたります。数えればきりがありませんね。
―そうなんですね。では,先ほども出てきましたが,雇用契約はどうですか,これも会社が多くの社員と契約を結んでいるので,定型約款の対象になるように思うのですが。
村本:雇用契約は,相手方の個性に着目して結ばれるので,対象にはなりません。先ほど話に上がったマンションの賃貸借契約も,不特定多数と結ぶ契約ではないので,対象にはなりません。
―なるほど。なんでもかんでも定型取引に当たるというわけではないんですね。では,定型取引に該当する場合にはどのような効果があるのですか。
村本:定型取引に該当する取引をした人は,一定の場合に,定型約款の個別の条項の内容を認識していなくても,その定型約款に合意をしたものとみなされることになります。
第3 定型約款による契約内容の補充
―えっ,契約の内容を知らなくても合意したことになってしまうんですか。なんか恐ろしいような気もしますが・・・。どのような場合に合意したことになるのですか。
村本:当事者が定型約款を契約内容とすることを合意していた場合と,定型約款を用意した当事者が,あらかじめ定型約款を契約の内容とすることを相手に表示していた時です。
―「この契約は定型約款に拠りますよ」と表示していただけでもいいということは,契約の相手方が同意していない場合は勿論,相手がそれを見ていない場合も含まれるってことですよね。
村本:そうですね。相手がそれを見ていない場合に約款の効力を及ぼすことができないというのでは,大量に取引をする事業者にとって不便となってしまうからです。
しかも,鉄道や飛行機など公共交通機関については,運行約款をインターネットのホームページで公開するだけで足りるとされています。
もっとも,この場合の公共交通機関というのは監督官庁があるため,一方的に利用者を害するような内容になることは,ほとんど考えられません。ですから,利用者の方が心配することはないと思います。
―そうなんですか。でも,約款の内容をチェックする監督官庁がないような場合で,個別の条項について全然確認していなかったという場合もありますよね。そんな時に,こっそり相手方にとってすごく不利な内容の契約が盛り込まれていたら困りますよね。
村本:そのとおりです。ですから,今回の改正民法では,相手方の利益を一方的に害するような条項については,合意をしなかったものとみなすと規定しています。
なお,「みなす」というのは,簡単に言うと,そういうことにしてしまう,という意味です。
―なるほど,その点も法律に定められているのですね。相手方の利益を一方的に害するっていうのは,どのような場合のことを言うのですか。
村本:例えば,事業者に責任がある場合でも,一切損害賠償責任を負わないとか,当初の契約内容からかけ離れた高額商品を購入させられるような内容の場合は,相手方の利益を一方的に害するということになると思います。
第4 定型約款の内容開示義務
―そう考えると定型約款というのも,そんなに不当なものではないのですね。
ところで,定型約款の内容っていうのは,契約をする前に確認することができるのでしょうか。
村本:その点についても法律に定められています。定型約款によって契約をしようとする人は,取引の前や取引の合意の後で,相手方から請求があった場合は,相当な方法で定型約款の内容を示さなければならないと規定されています。
―契約の締結前に定型約款の内容を開示することが,必ずしも要求されているわけではないのですね。
村本:そうですね,定型約款の内容をそもそも確認しようとしない人も多くいることから,常に事前に開示することは不要という建付けになっています。
もっとも,契約締結前に「定型約款の内容を確認したい」,と求めたにも拘らず,相手方がこれに応じなかった場合は,原則として定型約款の内容に拘束されることはないこととされています。
―なるほど。では契約締結後に,相手方から開示の請求があったのに,これを拒否した場合はどうなるのでしょう。
村本:この場合は今回の改正民法では規定されていないのですが,開示義務の不履行と言うことで債務不履行一般の問題となるので,損害賠償責任が発生する余地があると考えられていますね。
―そうなんですね,そうすると,心配な場合は契約締結前に,定型約款の内容の開示を求めて,内容を確認しておくということが大事になりますね。
他に定型約款に関して勉強しておくべきことはありますか。
第5 定型約款の変更
村本:定型約款を準備した当事者は個別に相手と合意することなく,定型約款の内容を変更することができることが定められています。
本来,契約の変更は相手との合意によって行わなければならないのですが,定型約款が用いられる取引は不特定多数と行われるため,内容の変更について,いちいち,全員と個別の合意を取り付けることは困難です。
ですから,一定の場合に変更後の定型約款の効力を相手方に及ぼすことができると規定されています。
―そうですよね,たとえば商品の仕入れ状況が悪化してしまったり,不測の事態が生じた場合でも契約内容をずっと変更できないとなると,不便ですよね。
では,定型約款の内容を変更することができる一定の場合とはどのような場合を指すのでしょうか。
村本:まず一つ目は相手の利益になる場合です。これは分かりやすいですね。次にもう一つが,契約をした目的に反せず,変更の必要性,変更内容の相当性,変更の規定の有無などに照らして合理的であるといえる場合と定められています。
ちょっとわかりづらいですが,要は契約の変更に合理性があれば認められますよ,ということを規定しています。
―なるほど,変更される相手方が不利益を受けないように,配慮がなされているということですね。こうして定型約款の規定をみてくると,今回の改正民法では,定型約款によって契約の効力を受ける相手方の利益を守るということが一貫して考えられているんですね。
村本:そうですね。
今回は主に相手方になる人の立場から定型約款について説明しましたが,事業をしている人など,定型約款を準備する立場の人にとっても,今回説明した改正民法の規定は重要な意味を持ちます。
一昔前であれば,企業など大きな資本力のある立場でなければ,不特定多数の人と取引をすることは考えられませんでしたが,今は,個人でもスマホのアプリを作って販売したり,クラウドファンディングを行ったり,不特定多数の人と取引をする機会がある時代です。今回の定型約款については,そのような時代背景も視野に入れて規定されたともいえるかもしれませんね。
―なるほど,現代社会の法律への反映というだけでなく,今後の社会の発展,つまり未来まで見越した民法改正といえるのかもしれませんね。残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。
今日は民法改正のうち,定型約款についてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年9月26日