周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
近隣トラブルについて
第2、目次
(1)境界トラブルとは
(2)境界を確定するためには近隣トラブルの対処方法
(3)境界トラブルの予防
放送日 | 2017年10月10日 |
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ゲスト | 佐藤敬冶 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
境界トラブル、境界、筆界、越境、境界標、筆界特定制度 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今回は「土地の境界をめぐるトラブルについて」というテーマで放送します。ゲストは、札幌弁護士会所属の佐藤敬治さんです。
佐藤:よろしくお願いします。
―前回は髙橋さんとお二人でしたが、今回はお一人での出演ですね。改めて簡単に自己紹介をお願いできますか。
佐藤:はい。札幌弁護士会に所属しております弁護士の佐藤敬治と申します。前回は同期の髙橋先生と一緒でしたが、今週と来週は一人なので、再来週からの髙橋先生の面白トークに水を差さないように頑張りたいと思います。
第1 境界トラブルとは
―髙橋先生のハードルを上げましたね。さて、今回は土地の境界をめぐるトラブルということですが、まず、境界というのはどのようなものなのでしょうか。
佐藤:はい。土地には必ず隣の土地との境目となる線があります。この土地と土地とを区切る線を「境界」と呼びます。
―なるほど。境界をめぐるトラブルというのは、具体的にはどのような形で生じるのでしょうか。
佐藤:境界をめぐるトラブルは、多くの場合、境界線を超えて塀や車庫などが設置されてしまうことで発生します。また、隣り合うどちらかの土地の所有者が相続や売買で変更になったりした時に、問題が顕在化することが多い気がします。
―普通は塀を設置するときにはどこまでが自分の土地とお隣さんの土地との境目に立てますよね。どうして境界線を超えて塀などを設置するような事態が発生してしまうのでしょうか。
佐藤:土地と土地との境目には、多くの場合境界標という四角い杭が打ち込まれています。
―そういえば、住宅地と道路との境目のあたりに先端に十字型の印が付いた杭があるのを見たことがありますね。
佐藤:それが境界標です。中央の十字の線が境界線を表しています。
―境界標は必ず設置されているのですか。
佐藤:古くから住まわれている土地や宅地ではない土地の場合、、、境界標が設置されていないこともあります。また、境界標が破損してしまっている場合や、そもそも境界標の設置位置が間違っていたり、敷地の工事のために一時的に移動してあった境界標を元に戻し忘れてしまったりと、様々な事情から境界が不明確になってしまう場合があります。
―境界がわからないというのは困りますね。越境のトラブルは境界線が不明確であることによって起きるのですね。
佐藤:そういうことが多いと思います。ただ、境界自体は明確になっていても、古くなって傷んだ塀が傾いてきて空中で越境してしまったというケースもありますので、敷地内に塀を設置したから100%安心というわけではありません。
―設置した塀の管理も大事なのですね。でも、私ならお隣さんとトラブルになるのは嫌ですね。少しはみ出しているという程度であれば何も言わずに放っておく方も多いのではないですか。
佐藤:そのような方もいらっしゃるかと思います。ただ、土地は多くの人にとって人生で一番高い買い物になるでしょうから、自分の土地が少しでも削られるのは納得できないという思いを抱く方もいらっしゃいます。
―たしかにそういった気持ちは理解できますね。気持ちの問題のほかに、越境を放っておくことで何か困ることはあるのでしょうか。
佐藤:将来土地を売却しようとするとき、越境の疑いがある土地というのはトラブルの元になりますので、買い手から敬遠されてしまいがちです。スムーズに土地の処分を進めるために境界トラブルの解決が必要になることもあります。
第2 境界を確定するためには
―:なるほど、境界トラブルの解決を思い立つのには色々な思いや事情があるのですね。それでは、境界標がなくなってしまっているような場合、どのようにして境界を確定すればよいのでしょうか。
佐藤:まず、その土地の境界線がどこであるのかを確認するための資料として、法務局で「公図」という書類を入手します。公図というのは、土地の形状や隣接地との位置関係がわかるようになっている図面です。かなり古い時代につくられたものなので、必ずしも正確ではないと言われていますが、境界を確定するときには重要な資料となります。この公図や境界付近の地形、以前から設置されている塀などの位置から境界線を確定させることになります。
―境界線を確定させるというのは、最終的には誰が決めるのですか。
佐藤:当事者同士で話し合いで解決できるのであれば、資料に基づいてここを境界線にしようと合意して、新たに境界標を設置することになります。
―ご近所同士ですから、話し合いで解決できるのが一番ですよね。では、話し合いで解決できない場合にはどうすればよいのでしょうか。
佐藤:ご近所同士でも仲が悪くて、話し合いではまったく収集がつかないという場合もあります。当事者間の話し合いでの解決ができない場合には、第三者に間に入ってもらって話し合いをしたり、第三者に境界を決めてもらうことになります。
―第三者というと、裁判所に申立てをするのでしょうか。
佐藤:裁判所での調停や訴訟提起による解決も一つの手法です。そのほかに、平成18年から施行された「筆界特定制度」という制度や、ADRと呼ばれる裁判外の紛争解決機関を利用することもあります。
―ADRというのは以前の放送でもお伝えしたことがありましたね。筆界特定制度というのは、どのような制度なのですか。
佐藤:筆界というのは、登記されている土地の範囲を区画する線のことで、通常はこれまでお話してきた境界の線と一致します。筆界特定制度というのは、筆界が実際の土地上のどこにあるのかを筆界特定登記官という人が調査して特定する制度です。
―なんだか難しい言葉が出てきました。「筆界」というのは、「境界」とどう違うのでしょうか。
佐藤:一般に境界と呼ばれているのは、ある人が所有している土地の範囲を示す線です。通常は土地を買ったときに登記をしますので、筆界と境界とは一致しています。ただ、隣人から境界付近の土地の一部を購入した後、登記をしていないといった事情がある場合、所有している土地の範囲は変更されますが、登記されない以上、筆界は変更されません。このような場合には、筆界と境界が一致しないことになります。
―なるほど。筆界特定制度は筆界の位置を特定してくれるけれども、その線が境界と一致するとは限らないということですか。
佐藤:そうです。たとえば、筆界と境界は一致しているはずなのだけれど、現地のどこが境界線になるのかわからないという場合には、筆界特定制度を利用して筆界の位置を特定してもらうことで、境界線も特定することができますが、筆界と境界が一致しない場合には、筆界特定制度を利用しても境界を特定することはできません。
―筆界特定制度を利用する場合には、費用はかかるのですか。
佐藤:申請をするときに土地の価額に応じた手数料がかかるのと、筆界の特定のために測量をする場合には測量の費用がかかります。一般的には裁判を行う場合よりも安い費用で済む場合が多いようです。
―費用をかけずにトラブルを解決できるのであれば、積極的に利用してもらいたいですね。
佐藤:そうですね。ただし、繰り返しになりますが筆界特定制度で特定されるのは筆界の位置ですので、境界の位置が直接的に特定されるわけではありません。当事者の方が特定された筆界の位置に不満があれば、改めて裁判で境界線を確定してもらうように求めることができます。筆界特定制度で境界トラブルに決着がつくとは限らないということです。
―なかなか難しいものですね。話し合いや裁判などで境界が確定した場合、越境している塀などはどうすることになるのでしょうか。
佐藤:塀の撤去や補修などで越境を解消してもらったり、越境している部分の土地を買い取ってもらう場合もあります。塀の撤去については強制執行手続で行うこともできますが、土地の買取りについては話し合いでの解決になります。
第3 境界トラブルの予防
―:お隣さんとは長い付き合いになるでしょうし、境界をめぐるトラブルを予防できるのが一番だと思いますが、どのようなことに注意しておけばよいのでしょうか。
佐藤:新しく土地を買う場合には、現地を見て境界標が設置されているか確認してください。境界標が設置されていなかったり、劣化していたり、傾いたりしている場合には、売主や隣の土地の所有者の方と相談して境界を確認し、新しい境界標を設置すべきです。
―境界標を設置するための費用は誰が負担するのですか。
佐藤:民法上は隣の土地の所有者と折半することになっています。ただし、境界を確定するために測量を必要とする場合、測量の費用については土地の広さに応じて分担することになっています。
―測量の費用については広い土地を所有している方の負担が多くなるということですね。境界がはっきりしている場合に注意すべきことはありますか。
佐藤:境界標だけでなく、境界に沿って塀や民地石などを設置しておくと、境界線がより明確になって将来の紛争の予防になるかと思います。もちろん塀などを設置するときには隣地に越境しないように注意する必要があります。地中の基礎部分が越境していたり、経年劣化で傾いて空中で越境してしまう例もありますので、境界線ギリギリより余裕を持たせた方が安全です。
―さて、本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は、境界トラブルについてお話をいただきました。次回は、引き続き佐藤敬治弁護士を迎えて、雨水や雪に関する隣地とのトラブルについてご紹介したいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士佐藤敬冶(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年10月10日