周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
近隣トラブルについて
第2、目次
(1)騒音トラブルの具体例
(2)どこからが違法な騒音になるの?(判断基準について)
(3)騒音トラブルにはどう対処すれば良いのか?
放送日 | 2017年10月24日 |
---|---|
ゲスト | 髙橋健太 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
近隣トラブル、マンション、戸建て住宅、騒音、境界、水漏れ、受忍限度 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今回は「騒音トラブルについて」というテーマで放送します。ゲストは,札幌弁護士会所属の髙橋健太さんです。
髙橋:よろしくお願いします。
―10月第1週に佐藤さんと髙橋さんの2人で出演した後,先週までの2回は佐藤さんが単独の出演でしたね。
髙橋:はい。佐藤先生から「お前は役に立たないから出るな」と言われました。
―えー,本当ですか。
髙橋:いえ,嘘です。
―ですよね・・・。
髙橋:佐藤先生は優しいのでそんなことは言いません。しかも,優しいだけではなく仕事も早いです。知恵袋の10月放送分は通常の月よりも火曜日が1週多いため,原稿を5本書かなければならなかったのですが,当初私が3本,佐藤先生が2本の予定でした。
しかし,締切が近づく中で、私がさぼっていたら,佐藤先生があっと言う間に3本書いてくれました。
―できる男って感じですね。
髙橋:そうなんです,できる男なんです。
―この流れだと,今日のテーマは「佐藤先生について」ですか?
髙橋:そうしたいのは山々ですが,そういうわけにもいかないので,そろそろ法律の話をしたいと思います。
―了解しました。さて,今月は,近隣トラブルについてお話しいただいていますが,今日は具体的にはどのような近隣トラブルでしょうか。
第1 騒音トラブルの具体例
髙橋:1週目でも近隣トラブルの具体例として少しだけ触れましたが,今回は「騒音トラブル」を取り上げたいと思います。
―確かに,騒音トラブルという言葉は耳にしたことがありますが,具体的にはどのような騒音がトラブルの原因になっているのでしょうか。
髙橋:個人宅で問題になり得る騒音としては,子どもの走る音,ピアノの音や歌声,ペットの鳴き声などがあります。
また,大きな工場が住宅街のど真ん中にあって騒音を出しているようなケースはあまり多くないと思いますが,住宅の近くにお店や施設があって,そこから騒音が出ている場合も,一種の近隣の騒音トラブルと言えると思います。過去に裁判で争われたケースとしては,カラオケ店,スポーツジムなどがあります。
―騒音にあたり得るものは色々あるんですね。ただ,素人考えかもしれないですけど,普通に生活していれば,ある程度の音が出るのはやむを得ないような気もするのですが・・・。
第2 どこからが違法な騒音になるの?(判断基準について)
髙橋:それはとても大事な発想です。おっしゃるとおり,個人が生活したり,お店を営業したりすれば,ある程度の音が出るのは当たり前です。ですので,大きな音がただちに違法な騒音にあたるわけではありません。
―では,違法な騒音かどうかというのは,どのように考えるのでしょうか。
髙橋:騒音の場合に限った話ではありませんが,法律の世界では,「受忍限度」という考え方があります。ここでいう受忍は,我慢とか,耐えるという言葉と同じような意味です。
人の権利や利益が制限されている場合に,その制限が,社会生活上一般に受忍すべき範囲を超えているか超えていないかを検討して,社会生活上一般に受忍すべき範囲を超えている場合にのみ,違法とする考え方です。
これを騒音に当てはめて,誤解をおそれずにわかりやすく言えば,普通の人なら我慢するような音は違法ではないけど,普通の人が我慢できないような音は違法ということになります。
―何となく言わんとすることはわかりますが,ちょっと曖昧な気もしますね。
音の大きさの単位に基づいて,ここまでは受忍限度内,ここからは受忍限度を超えるというような形で決まっていないのでしょうか。
髙橋:音の大きさの単位としてデシベルというものがあります。問題とされている騒音が何デシベルかということは,当該騒音が受忍限度内かを判断する上で大事な考慮要素の1つですが,それだけで決まるわけではありません。
確かに少し曖昧かもしれませんが,音の大きさ,つまり,何デシベルということだけで判断すると,かえって実情をふまえない不当な結論になってしまうおそれがあります。
―どういうことでしょうか。
髙橋:これは,音の大きさ以外にどういう要素が考慮されるかを話した方がわかりやすいと思います。
受忍限度内か否かを判断するにあたっては,被害の内容・程度,侵害行為の態様,侵害、つまり音の発生源の所在地の地域環境などが考慮されます。
つまり,騒音の場合は,音の大きさ以外に,その音がどれくらいの期間・頻度で発生しているか,その音が発生しているのは何時頃か,そこはどのような場所か,音を出している側で防音のための措置を講じているかなどを考慮して判断します。
―なるほど。言われてみれば,同じ大きさの音でも,昼なのか夜なのか,閑静な住宅街なのか普段からある程度、ガヤガヤしている繁華街のような場所なのかなどによって,感じ方は全然違う可能性がありますよね。
髙橋:はい,時間や場所は,騒音を考えるにあたって,大事な考慮要素の1つです。
あとは,その音がどれくらいの期間・頻度さで発生しているかと言いましたが,人間は,どんなに大きな音でも1回くらいであれば普通は我慢できますが,それがずっと続けば,つまり,長期間であればあるほど,あるいは,頻繁であればあるほど,精神的なストレスは大きくなります。
ですので,音の大きさは最も重要な要素の一つですが,それだけでは決まりません。
第3 騒音トラブルにはどう対処すれば良いのか?
―では,仮に受忍限度を超えるような騒音が発生しているとして,音を出している人に対して,どのようなことを請求することができるのでしょうか。
髙橋:法的には2つの請求が考えられます。
1つは,騒音を出すのをやめて下さいという請求です。差止請求といいます。
もう1つは,騒音によって被った損害を賠償して下さいという請求です。損害賠償請求といいます。
(MC)
止めてください、という請求か、慰謝料を払ってくださいという2種類の請求ができるのですね。
(髙橋)
はい。
損害としては,慰謝料の他にも,例えば騒音に悩んで通院したような場合には,その病院代なども考えられます。
ただ,1週目にも触れましたが,近隣トラブルの場合,いきなり法律をふりかざしてこのような請求をすると,かえって紛争がこじれてしまって、早期に解決しないおそれがあります。
―今後もご近所としてお付き合いしていく可能性がありますからね。
髙橋:そうですね。ですので,まずは騒音を出している方と穏やかに話をして,改善を求めるのが良いと思います。
マンションやアパートの場合は,管理会社や管理組合に間に入ってもらって話をするという方法も考えられます。
―それでも解決しない場合は,どうすればよいのでしょうか。
髙橋:そうなると,本意ではなくても,民事調停や訴訟で解決せざるを得ません。
―
やっぱりそうなるのですね。
民事調停や民事訴訟では、どのようなことが重要でしょうか?
髙橋:はい。ここで問題になるのが,証拠です。
話し合いの段階でも証拠があった方がスムーズな場合はありますが,証拠がなくても話し合いはできます。そして,証拠がなくても,当事者間で自主的な改善がされれば,一件落着です。
他方,訴訟の場合は,証拠が不可欠です。また,民事調停は,あくまで話し合いではありますが,裁判所で行う手続きの一種ですので,ある程度の証拠はあった方が良いと考えます。
しかし,ご存知のとおり,騒音は目に見えないので,証拠にするのが簡単ではありません。
―では,騒音が争われる訴訟では,どのように証拠を準備すればよいのでしょうか。
髙橋:証拠としては,騒音の録音,騒音計を使った測定記録などがあります。事案によっては,このような物的証拠の他に,証人として近隣の住民や大家さんに証言してもらうと良い場合もあると考えます。
なかなか一般家庭に騒音計はないと思いますが,市町村によっては騒音計を無料でレンタルしてくれます。例えば,札幌市は,事前に予約をすれば,騒音計を無料で1週間レンタルしてくれます。また,有料になってしまいますが,業者から騒音計を借りたり,業者に測定を委託するという方法もあります。
―民事訴訟の場合はきちんと証拠を準備することが大事なのですね。
髙橋:そうですね。
ただ,繰り返しになりますが,あくまで訴訟は最後の手段です。
騒音については,騒音被害を受けているという方からの相談が多いですが,騒音を出していない,あるいは,騒音を出さないように注意しているにもかかわらず,近所に住む特定の人から騒音をやめろと言われ続けてノイローゼ気味になっているという相談も聞いたことがあります。
―確かに,それは辛そうですね・・・。
髙橋:もちろん,一次的には音を出す側が注意しなければならないですが,このようなケースもあり得るので,騒音を訴える側にも慎重さが必要な場合もあります。
本日の話を簡単にまとめると,音を出す側は,日頃からなるべく音が大きくならないように注意し,特に音を出す時間に配慮して下さい。音に関して近所から注意を受けた場合は,その時点で弁護士に相談することを検討して下さい。早めにご相談いただければ,訴訟になる前に,過去の裁判例等を参考に,改善すべき点をアドバイスできる可能性があります。
また,騒音を訴える側は,いきなり訴訟をするのではなく,まずは話し合いによる解決の可能性を探って下さい。この話し合いは,自分ですることもできますし,弁護士に依頼してすることもできます。そして,どうしても訴訟が避けられない場合は,証拠をきちんと準備することを考えて下さい。
―さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は,騒音トラブルについてお話をいただきましたが,次回は,今回に引き続き髙橋さんを迎えて,町内会・自治会に関するトラブルについてご紹介したいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年10月24日