周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
近隣トラブルについて
第2、目次
(1)町内会・自治会におけるトラブルの概略
(2)町内会・自治会におけるトラブルの具体例とその対処方法
放送日 | 2017年10月31日 |
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ゲスト | 髙橋健太 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
近隣トラブル,町内会,自治会,町内会費,自治会費,退会,横領 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今回は「町内会・自治会に関するトラブルについて」というテーマで放送します。ゲストは,前週に続き,札幌弁護士会所属の髙橋健太さんです。
髙橋:よろしくお願いします。
第1 町内会・自治会におけるトラブルの概略
―さて,近隣トラブルも今回で最終週となりましたが,今回のテーマは町内会・自治会ですか。
髙橋:はい。第1週で近隣トラブルの概要をお話しした後,第2週~第4週でそれぞれ1つずつ具体的な近隣トラブルのお話をしてきましたが,今回の町内会・自治会に関するトラブルは,今までと若干毛色が違う点があります。
と言うのは,近隣トラブルと言われて普通イメージするのは,お隣同士のように,個人対個人のトラブルだと思います。第2週~第4週で扱った,土地の境界をめぐるトラブル,隣地の雨水・雪のトラブル,騒音トラブルはまさにこの類型です。実際,近隣トラブルに関するご相談も,個人対個人のものが圧倒的に多いです。
しかし,近隣トラブルだからと言って,全てが個人対個人ではなく,団体に関するトラブルもあります。それが町内会・自治会に関するトラブルです。
第2 町内会・自治会におけるトラブルの具体例とその対処方法
―確かに,町内会や自治会は,近所だったり,同じマンションやアパートに住む人達で構成されていますよね。では,具体的に,どんなトラブルがあるのでしょうか。
髙橋:まず,町内会や自治会でした決定,特に人事関係の決定の効力を争いたいというケースが考えられます。
―争うことは可能なのでしょうか。
髙橋:争う理由によります。
例えば,ある町内会にサトウケイジさんという会長がいたとしましょう。あくまで架空の事例で,今月前半に出演していた弁護士の佐藤敬治さんとは無関係です。
このサトウさんは,町内会のために働くとても人気のある会長でしたが,実は任期中に暴行事件を起こしてしまいました。そのため,一部の住民がサトウさんを会長に再任することに反対しましたが,総会における投票の結果,過半数の賛成により,サトウさんを会長に再任することが決定されました。
このような事例で,サトウさんは会長にふさわしくないから町内会の決定は無効だと言っても,決定は無効になりません。仮に,本当にサトウさんは会長にふさわしくなくて,町内会ではない人100人中100人がサトウさんは会長にふさわしくないと思ったとしても,町内会が多数決で決定したのであれば,その決定は有効です。
しかし,総会が定足数を充たしていなかったとか,本当は過半数の賛成がなかったなどの理由であれば,決定が無効になる可能性があります。
―なるほど。手続きの点で問題がなければ,原則として町内会や自治会の決定は尊重されるということですね。
髙橋:そういうことです。
―他に,町内会や自治会に関して,どんなトラブルがあるのでしょうか。
髙橋:他には,町内会・自治会のお金絡みの相談,つまり,町内会・自治会の役員が町内会・自治会の財産を遣い込んでいる可能性があるがどうしたらよいかという相談を受けるケースがあります。
―こういった場合,どういう手段がとれるのでしょうか。
髙橋:先ほどの町内会の会長のサトウさんが100万円を遣い込んだという事案で考えてみましょう。おそらく,遣い込みが発覚した時点で通常は、会長を辞任又は解任されるので,前会長とした方が正確かもしれません。ただし,あくまで・・・・。
―架空の事例で,今月前半に出演していた弁護士の佐藤敬治さんとは無関係なんですね。
髙橋:はい,そうです。読まれていますね。
このケースで考えられる手段は2つです。
1つ目は,前会長のサトウさんに対する損害賠償請求です。ただし,この時,損害賠償請求の主体は,町内会の住民1人1人ではなく,あくまで町内会です。厳密には,町内会は,会社のような法人とは異なるので,少し法律面で専門的な話がありますが,いずれにしても,個々の住民1人1人が損害賠償請求できるということにはなりません。
ですので,仮に,町内会として総会等により,前会長のサトウさんに損害賠償請求しないという決定をすれば,損害賠償請求はできません。
2つ目は,刑事告訴又は刑事告発です。町内会の100万円を遣い込んだ前会長のサトウさんには,刑法253条の業務上横領罪が成立する可能性があります。
―でも,損害賠償のように,町内会が前会長のサトウさんの刑事責任を望まないという決定をした場合は,結局何もできないのでしょうか。
髙橋:いいえ,その場合であっても,刑事告発は町内会の一部の住民だけですることができます。もっと言えば,刑事告発は1人でもすることができます。
刑事告訴の場合も刑事告発の場合も,最終的に起訴するかどうかを決めるのは検察官ですが,刑事告発であれば1人でもすることができるというのは,損害賠償請求との決定的な違いです。
―なるほど。他に,町内会や自治会に関して,どんなトラブルがあるのでしょうか。
髙橋:あとは,町内会費や自治会費とも関連して,退会をめぐってトラブルになるケースがあります。つまり,町内会や自治会を退会することができるのか,その場合,町内会費や自治会費は払わなくて良くなるのかという問題です。
―町内会や自治会は必ず入らなければならないものだと思っていましたが,退会することはできるのでしょうか。
髙橋:町内会や自治会には,通常,必ず規約や規則と呼ばれるものが存在します。これは,町内会・自治会の運営に関するルールを定めたものです。
そして,この規約・規則等に,退会に関する定めがあれば,その定めに従って手続きをすれば,問題なく退会することができます。
―では,規約・規則等に退会に関する定めがなければ,町内会・自治会を退会することはできないのでしょうか。
髙橋:いえ,そうとは言えません。
最高裁判所の判例で,規約・規則等に退会に関する定めがなくても,自治会からの退会を認めたものがあります。
―町内会・自治会を退会すると,町内会費・自治会費を払わなくてもよくなるのでしょうか。
髙橋:基本的にはそういうことになります。
ただし,規約・規則等に退会に関する定めがなくても,自治会からの退会を認めた先ほどの最高裁判所の判例では,自治会を退会した後も,共用施設を維持するための費用は負担しなければならないと判断しています。
町内会費・自治会費の使途としては,会員である住民の親睦を深める行事を実施するための費用もあれば,住民全員が使う共用施設の電気代のような費用もあります。
そして,後者の共用施設を維持するための費用については,たとえ町内会・自治会を退会した後であっても負担しなければならない場合があるということを意味します。
―確かに,町内会や自治会を退会した住民含めて全ての住民が使うような施設の維持費は,退会した後も支払わないと不公平な感じがしますね。
何気なく入っている町内会や自治会でも,色々とトラブルがあることがわかりました。
髙橋:普段なかなか忙しくて町内会や自治会の活動ができないという場合もあるとは思いますが,会員である以上は,可能な限り活動に参加した方が良いと思います。
今日は,テーマとの関係で,役員の方に失礼な話もしてしまいましたが,実際にはボランティアで町内会・自治体のために頑張っている役員の方がたくさんいると思います。
一部の人に負担が偏らないようにして,健全な町内会・自治会の運営をすることが大事だと思います。
―そうですね。さて,5週にわたって近隣トラブルについてお送りしてきましたが,近隣トラブルの解決において重要なことは何でしょうか。
髙橋:1点目としては,ちょっとだけ法律から離れてしまいますが,ご近所同士の日頃の関係が大事だと思います。先週お話をした,騒音トラブルと受忍限度の問題などは特にそれが大事だと思います。ご近所同士で過度に親しくして下さいということを申し上げるつもりはないですが,ある程度の関係を築いて,人となりがわかっていれば,こういう音が出るのもやむを得ないかなと寛大になれたり,逆に,音に関して近所の人から注意されたとしても注意された側が素直に受け入れられるということはあるのではないかと思います。そういう日頃の関係が,いざという時にも話し合いで解決できる下地になると思います。
―確かに,そういう面はありますね。
髙橋:その上で,2点目として,いざ紛争になったり,なりそうになったりした場合は,早めに専門家に相談してほしいと思います。
これは1点目と一見矛盾するかもしれませんが,そうではありません。弁護士に相談したからと言って,必ず訴訟ということではありません。
助言だけで解決できることもあれば,交渉や民事調停などの話し合いを中心とした手続きで解決できることもあります。
紛争が複雑化し,感情的に激しく対立してしまう前に,法律の専門家である弁護士に相談してほしいと思います。
―ありがとうございます。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今月は,近隣トラブルについてお送りしました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年10月31日