周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
司法過疎問題と若者の消費者被害について
第2、目次
(1)遺産分割について
(2)葬儀費用について
(3)祭祀承継について
放送日 | 2017年12月12日 |
---|---|
ゲスト | 菊地顕太 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
遺産分割、葬儀費用、祭祀承継、相続人間の公平、被相続人の意思 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今回は「遺産分割に付随する問題について」というテーマで放送します。
ゲストは、先週に引き続き、札幌弁護士会所属の菊地顕太さんです。
菊地:よろしくお願いします。
第1、遺産分割について
―先週は、司法過疎についてお話を伺ったのですが、先生が頻回相談をされるなかで、相続に関する問題が多いとおっしゃっていましたよね。
菊地:はい。
結構多いかもしれません。
今日は、その相続の問題の中でも、遺産分割に付随する問題についてお話しさせていただければと思います。
―早速ですが、遺産分割とはどういったことをするのでしょうか。
菊地:はい。遺産分割とは、その名のとおり、被相続人の遺産を相続人の間で分けることです。
ただ、遺産をどのように分けるかについては、相続人の間で話し合いがまとまらないということもあります。
そのような場合には、家庭裁判所を利用して話し合う調停という手続や裁判官にどのように分けるか判断してもらう審判という手続を利用することもできます。
―なるほど。
今日は、その遺産分割に付随する問題ということをテーマにお話をしていただけるということなのですね。
菊地:はい。
第2、葬儀費用について
―それでは、具体的にどのような問題があるのでしょうか。
菊地:はい。人がお亡くなりになると、行うものがありますよね。
―お通夜とかお葬式でしょうか。
菊地:はい。そうですね。
葬式等を行って、その葬儀費用をだれが負担するのかという問題が生じる場合があります。
―葬儀費用も高くなる場合がありますからね。
菊地:はい。
今、「葬儀」という言葉がでましたが、葬儀というのは、一般的には慣習などに基づき、遺体の埋葬・火葬、火葬後の焼骨の埋蔵、収蔵等の行為を意味します。
そして、葬儀の型式については、信仰する宗教や慣習などにより様々なものが見られますが、大きく分けて①一般葬、②家族葬、③社葬。団体葬、④直葬があります。
―聞いたことのないものもありますが、それぞれ教えてもらえますか。
菊地:はい。
①一般葬とは、親族、友人、近隣者、職場関係者等一般弔問客を招いて行う葬儀です。
また、②家族葬とは、家族、親族のみ、あるいは個人と親交のあった者等少人数による、一般弔問客を招かず行う葬儀です。
③社葬、団体葬とは、会社、団体の発展に功績を残した個人等に対し、会社や団体が主催し行う葬儀です。
さらに、④直葬とは、儀式を行わずに火葬するだけの葬儀です。
近年の傾向としては、家族葬や直葬の割合が高まっており、葬儀の簡素化が見られております。
―この葬儀費用は誰が負担するということが多いのでしょうか。
菊地:そうですね。通常の場合は、被相続人の生前の指示があり、相続人ら遺族がこれらを尊重して決めたり、相続人、親族らなど関係者が協議して合意の上で決めることが多いと思います。
これらの形でまとまる場合はいいのですが、争いになった場合には、様々な見解が主張されることがあります。
―どのような争いがあるのですか。
菊地:そうですね。具体例を基に考えてみましょうか。
例えば、Aさんが亡くなり、Aさんと前妻の子であるBさんと、Aさんの現在の妻であるCさんが相続人となり、Aさんの財産をそれぞれ相続することになった事例で説明してみます。
Aさんの葬儀、その後の法要、納骨は、Aさんの現在の妻であるCさんが喪主として執り行われました。
Cさんは、葬儀の費用を自分の預金から支出しており、遺産分割の中でBさんに対して立替金として請求したいと考えています。
この場合、Cさんの請求は認められるかという問題なのですが、どう思いますか。
―うーん。難しいですね。すぐには答えが思いつかないですね。
菊地:そうですよね。これだけの情報からではCさんの請求が認められるかどうかすぐには判断できません。
そのため、場合分けして順に説明していきたいと思います。
―お願いします。
菊地:はい。まず、葬儀費用の負担について、喪主負担説という学説があります。
喪主負担説とは、葬儀の相応の費用は、葬儀の形態を決めるなど実質的に葬儀を主宰した喪主が負担すべきであるという説です。
近時の裁判例には、この喪主負担説によるものが数多く存在しますね。
―そうすると、今回のケースでいうと喪主であるCさんが負担ということになりそうですから、Cさんの請求は認められないということになりそうですね。
菊地:はい。
ただ、裁判例もこの喪主負担説を形式的に適用するのではなく、個別具体的な事情を検討した上で、負担者を決めているようです。
例えば、Cさんが喪主となることにBさんが同意して、葬儀にもBさんが参列して葬儀に関わっていたような場合はどうでしょうか。
―Bさんも同意していた場合ですか。
菊地:はい。
この場合には、形式的にはCさんが喪主となっておりますが、BさんもAさんの葬儀に関与しており、葬儀費用は相続人であるBさんとCさんが負担する一事情となると思われます。
逆に、CさんがBさんに対してAさんの死亡を伝えず、Bさんが葬儀に関与せずCさんが葬儀に関する諸手続きを執り仕切った場合には、Cさんが葬儀費用を負担すべき一事情になると考えられます。
―なるほど。誰が喪主かというだけではなく、それ以外の様々な事情を考慮して、葬儀費用を誰が負担するかを決めるのですね。
菊地:はい。
喪主が誰かと言うことも1つの事情にはなると思いますが、結局は他の事情を合わせて総合考慮したうえで、誰に葬儀費用を負担させるか決めるということですね。
―他には、どのような事情があるのですか。
菊地:他には、BさんとCさんがどれだけ相続分を得たかということも一事情になると考えられます。
今回の例では、BさんとCさんが本来の法定相続分である2分の1ずつ相続した場合には、相続人の公平を図るために、BさんとCさんで葬儀費用を分担するということも考えられるかと思います。
これに対して、Cさんが特別な利益を得て、Bさんよりもかなり多い相続分を得ている場合には、Cさんが葬儀費用を負担するということも考えられるかと思います。
―なるほど。以上のさまざまな事情を考慮して、誰が葬儀費用を負担するかを決めるのですね。
菊地:はい。そういうことになりますね。
第3、祭祀承継について
―その他に、遺産分割に付随して生じる問題はありますか。
菊地:はい。
先ほどの葬儀費用の問題にも関係してくるのですが、祭祀承継という問題があります。
―祭祀承継ってあまり聞かないのですが。
菊地:そうですよね。
祭祀承継とは、「系譜、祭具及び墳墓」のような先祖の祭祀の用具である祭祀財産の所有権の承継のことです。
簡単にいうと、家系図、位牌や仏壇、お墓を誰が承継するかという問題です。
―え、それらは遺産とは違う扱いがされるということなのでしょうか。
菊地:はい。
民法では、896条で、相続人は、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると規定しているのですが、897条では、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、祭祀を主宰すべき者が承継するとなっていて、祭祀財産は遺産とは別の扱いをしています。
―そうすると、遺産とは別に、祭祀財産を承継する人が争われるケースもあるということでしょうか。
菊地:はい。そうなんです。
―遺産を分けるときには、法定相続分という基準があると思うのですが、祭祀承継者が争われた場合に、誰にするか基準のようなものはあるのですか。
菊地:はい。
まず、祭祀承継の順番については、民法897条に規定されています。
順番としては、まず被相続人による指定、次に慣習により、最後に家庭裁判所の指定により承継人が決められることになります。
―なんだか、それだけではよくわかりませんね。
菊地:それでは、これについても具体例に基づいて考えていきたいと思います。
例えば、Aさんが死亡し、その後、Aさんの夫であるBさんが死亡しました。
Bさんの相続人には、子供のCさんとDさんがいたとします。
Bさんが守ってきた墓地には、祖先のお墓の他に、AさんとBさんの子で、幼いときに亡くなったEさんの子供の墓がありました。
―はい。
菊地:Bさんが遺言で「Aが亡くなった時にAの遺言によりEのお墓を建てました。CとDで先祖のお墓を守っていってください」と書かれていたとします。
これに対して、CさんはAさんとBさんの子であるEさんのお墓を撤去したいと考えており、Dさんは先祖の墓と子供のお墓の両方を守っていきたいと考えていたとします。
この場合、祭祀承継者はCさんとDさんのどちらになるでしょうか。
―うーん。事案が複雑でよくわかりません。
菊地:そうですよね。それでは、これも順番に説明していきたいと思います。
まず、先ほど述べた民法の順番によると、被相続人による指定が考えられます。
そして、祭祀承継者は1人に限定されてはいませんが、今回は「CとDで先祖のお墓を守っていってください」と記載された遺言は存在していますが、明確にだれを祭祀承継者に指定するとの記載はありません。
そのため、被相続人による指定はないと考えます。
この場合、慣習がなければ家庭裁判所の調停又は審判という手続きにより祭祀承継者を決めることになります。
―家庭裁判所で祭祀承継者を決める場合には、どのように決めるのですか。
菊地:はい。
参考になる裁判例があるのですが、その裁判例では、「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」という判断基準を示しています。
―なるほど。
その人が生存していれば、おそらく指定したであろう人ということですか。
その判断基準によると今回はどうなるのですか。
菊地:はい。今回は、先祖のお墓の他に子供のお墓があります。
そして、子供のお墓は、Bさんの配偶者であるAさんの遺言によるものであり、Bさんが建てたものになります。
そのため、Bさんとしては、先祖のお墓と子供のお墓の両方を守っていくという最終意思があったと考えられますので、先祖のお墓と子供のお墓の両方を守っていきたいと考えているDさんを祭祀承継者に指定するということになりそうです。
ただ、これはあくまで参考例で、様々な事情によって判断が分かれるということもありますので、その点は覚えておいていただけたらと思います。
―分かりました。
やはり困ったら弁護士の先生に相談したほうがよさそうですね。
残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。今日は遺産分割に付随する問題についてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大
弁護士田村暢健(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士菊地顕太(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士菊地顕太(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年12月12日