周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
司法過疎問題と若者の消費者被害について
第2、目次
(1)マルチ商法の被害に対する対応策について
(2)マルチ商法被害に対する民事の対応策
(3)マルチ商法被害に対する刑事の対応策
放送日 | 2017年12月26日 |
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ゲスト | 出村洋介 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
若者、消費者被害、仮想通貨、投資、サイドビジネス、マルチ商法、詐欺、カードローン、借入れ、SNS、民事訴訟、強制執行、差押え、債務整理、刑事告訴 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今日のゲストは、先週に引き続き、札幌弁護士会所属の出村洋介(でむらようすけ)さんです。
出村:よろしくお願いします。
第1、マルチ商法の被害に対する対応策について
―さて、早速本日のテーマに入っていきたいと思います。
前回は、若者の消費者被害の概略についてお話いただきましたが、今回は、その対応編ということですね。
出村:はい。前回は、若者が業者に何百万円も投資したけれども、会社から全然配当が入ってこなくなったという、マルチ商法の被害についてお話しました。
今回は、そうしたマルチ商法の被害に対する対応策について、お話させていただければと考えております。
―では、さっそくですが、業者に投資したのに全然配当が入ってこないという場合には、弁護士としては、どのような対応策が考えられますか。
出村:大きく分けると、民事での対応策と、刑事での対応策があります。
―分かりました。それでは、まず民事のお話をしていただいて、その後に刑事のお話をしていただいてもよろしいでしょうか。
出村:分かりました。
第2、マルチ商法被害に対する民事の対応策
―まず民事の対応策にはどのようなものがありますか。
出村:民事の対応策として、まず考えられるのは、業者に対して投資した金額の返金を求めるという方法です。
弁護士が対応する場合には、まずは、問題となっている業者に対して、投資金額の返金を求める文書を郵送することが考えられます。
投資話をしてくる会社には、勧誘の際に何らかの法律違反などをしていることも多いので、そうした法律違反などを理由として、返金を求めるという方法です。
もっとも、相手が悪徳業者の場合には、弁護士が文書を送ったとしても、文書を無視したり、返事はするが返金はしてこなかったり、という業者も多いです。
こうなってしまうと、もう文書を送るというだけでは、投資した金額を回収することが難しいということになってしまいます。
―では、その次の対応策としては、弁護士としては、どのようなものが考えられますか。
出村:そうですね。文書を送っても返金がない場合には、裁判所に法的手続をとるということが考えられます。
―法的手続とは、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。
出村:代表的なのは、投資した金額の返金を求める民事訴訟を提起する、という方法です。簡単にいうと、裁判を起こすと言われる方法です。
裁判所に訴えて、勝訴の判決が出れば、悪徳業者も観念して、お金を返金してくる場合もあります。
―では、勝訴判決が出た後に、もしも業者が払って来ない場合は、どうなりますか。
出村:その場合は、強制執行という手続をとることが考えられます。
例えば、もしも問題となっている業者がビルを持っている場合には、勝訴判決によってそのビルを差し押さえることがありえます。)。
―ビルの差押えですか。
出村:はい。ただ、ビルの競売手続に時間やお金がかかることもありえますので、業者が銀行にお金を預けている場合には、その預金口座を差し押さえたりすることもあります。
ただし、必ず上手くいくとは限りません。
―えっ、判決で勝訴しても、業者からお金が返ってこないということですか。
出村:はい。残念ながら、勝訴判決があっても、お金が返ってこないということもあります。
―なぜ、判決では勝訴したのに、お金が返ってこないのですか。
出村:一つ目の理由は、判決が出て強制執行をする前に、業者が倒産してしまうことがあるからです。
問題となった業者の噂が社会に広まってくると、その業者に投資しようという人がだんだん少なくなってきます。そのため、消費者とトラブルを起こしている業者の経営は、通常どんどん悪くなっていきます。ですので、勝訴判決を手にした頃には、既に相手の業者が破産とかとんずらしてしまっていた、ということも多いのです。
最初から、ある程度のお金を集めたら逃げるという計画を立てているより悪質な業者もいますね。
―もう、一つの理由はなんでしょうか?
出村:二つ目の理由は、業者が財産を隠している場合があるからです。
弁護士が業者の財産を差押えるためには、その業者が、どこにどんな財産を持っているか分かっていなければなりません。しかし、最初からお金を返す気がさらさらないという悪徳業者の場合には、財産をいろいろな場所に隠してしまっている場合があります。弁護士といっても警察とは違って強制的に捜査できるわけではないので、業者が意図的に財産を隠してくると、弁護士としても、差押えをすることが非常に難しくなります。
ただし、もちろん、強制執行をすることによって、お金が戻ってくる場合も多々ありますので、ケースバイケースということになります。
―なるほど。民事訴訟や強制執行については良く分かりました。
では、民事訴訟や強制執行で投資したお金が戻ってこない場合には、他には何か対応策はないのでしょうか。
出村:そうですね。業者からお金が返ってこない場合でも、被害拡大を防ぐことができる場合があります。
例えば、「投資のために借りたお金が返済できなくなった」という場合には、債務整理によって、借金を減らすことができる場合があります。
―債務整理によって、借金がゼロになるのですか?
出村:確かに、借金がゼロになる場合もあります。
「自己破産」という手続を裁判所で行うと、原則として、ほとんどの借金を返さなくてよくなります。
もっとも、自己破産をすると、自分の財産を残せなくなってしまうというデメリットがあるのと、借金を作った側の人にも著しい過失があった場合、つまり、最初から違法な商売だ、ギャンブル性が強いんだと十分知っていた場合には、裁判所が「免責」をしてくれない場合もあります。
―自己破産ですか・・・。「破産」と聞くと何だか大事のような気がして、抵抗感を持つ方もいらっしゃいそうですが。
出村:確かに、「破産」という響きに抵抗感を感じられる方は多いと思います。
自己破産には、「借金をリセットして、人生の再スタートを支援する」という意味合いもあると思うのですが、やはり破産を回避できるものなら、回避したいという方も多い印象です。
―自己破産以外には、借金を減らす方法はないのでしょうか。
出村:安定した収入がある方の場合には、「個人再生」という手続が使える可能性があります。
個人再生は、借金を減額した上で、その減額後の金額を3年間から5年間程度の期間で分割返済していく手続です。
例えば、500万円の借金がある方の場合には、上手くいけば借金を100万円程度まで減らすことができます。
―なるほど。仮に悪徳業者の被害に遭って借金を背負った場合でも、借金を減らせる場合があるのですね。
第3、マルチ商法被害に対する刑事の対応策
―ここまでは、マルチ商法被害に対する民事の対応策についてお話いただきました。
それでは、刑事の対応策について、お話いただけますか。
出村:刑事の対応策としては、「刑事告訴」という手続をとることが考えられます。
―刑事告訴とは、どのような手続なのですか。
出村:刑事告訴とは、「詐欺被害にあったので、悪徳業者を詐欺罪で処罰してください」と警察などに訴える手続のことです。
これは、業者の手法が悪質で、詐欺に該当するような場合の対応策です。
―刑事告訴をすると、投資したお金は戻ってくるのでしょうか。
出村:残念ながら、刑事告訴は、警察などに訴えるという手続なので、直接お金を返金してもらうための手続ではありません。
ごくまれに、警察が捜査した結果、業者が隠していた財産を警察が差し押さえてくれる場合もあります。しかし、警察が差し押さえた場合であっても、被害者全員に返金できるということは少ないです。
刑事告訴は、どちらかというと、「業者がお金を返せないのならば、せめて業者に刑事責任は取っていただく」という意味合いの手続です。
―そうすると、刑事告訴をする意味は、どのあたりにあるのでしょうか。
出村:もしも警察が詐欺罪で悪徳業者を立件すれば、今後は、その悪徳業者による被害を防止することができます。
また、悪徳業者に対して泣き寝入りせずに、きちんと声を上げていくことで、他の悪徳業者に対する抑止力にもなります。
ですので、若者のマルチ商法の被害者を減らしていくのに、大きな意味があるのではないかと思っています。
―なるほど、~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。今日は若者の消費者被害の対応策についてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大
弁護士田村暢健(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士出村洋介(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士出村洋介(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年12月26日