周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
ようこそ、法律相談センターへ
第2、目次
(1)法曹になろう!?
(2)「法曹」とは?
(3)ぜひ、「法曹」を目指して欲しい
(4)法科大学院という制度・司法試験の仕組み
(5)より良い裁判制度の実現に向けて
放送日 | 2018年2月20日、2018年2月27日 |
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ゲスト | 竹信航介 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
法曹とは?、法曹志願者の減少、法科大学院、司法試験、時間的・経済的負担、合格率、多様な人材、やりがい |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今日のゲストは、札幌弁護士会所属の竹信航介(たけのぶこうすけ)さんです。
竹信:よろしくお願いします。
私は今年で弁護士になって8年目になります。札幌弁護士会では、「司法改革推進本部」というところで、今日のテーマのような問題について、議論したり運動したりしています。
第1、法曹になろう!?
―今日のテーマは「法曹になろうびっくりはてな」ということなのですが、まず、「法曹」という聞き慣れない単語について教えてください。
第2、「法曹」とは?
竹信:そうですよね。ラジオ放送で「法曹」といってもピンとこない方が多いと思います。漢字で説明すると、法律の「法」に、鬼軍曹の「曹」、重曹の「曹」の「曹」と書いて「法曹」と読みます。「曹」という漢字は、日本語でいうと「部屋」とか、法律に関わる役人とか、そういう意味らしいです。
―漢字は、なんとかわかりましたけど、意味はやっぱりわからないですね(笑)。法律家の部屋くらいの意味でしょうか?
竹信:ニュアンス的には、それに近いですね。具体的にいうと、裁判官と検察官と弁護士という3つの集合体を「法曹」と呼んでいます。いわゆる業界用語というものですね。
―なるほど~。
ということは、今日のテーマは、裁判官・検察官・弁護士になろうというテーマなのですね。
第3、ぜひ、「法曹」を目指して欲しい
竹信:はい。
最近の傾向として、その法曹になろうと考えている方、具体的には、司法試験の志願者が減ってきているということに危機感を感じて「びっくりマーク」と「はてなマーク」を付けてみました。
小学生のなりたい職業として、ベスト10に入らないのは昔からだと思いますが・・・。
―最近では、ゲームクリエーターやユーチューバー等が人気だそうですね。
話は戻りますが、法曹を志願する人が減ってきているのは、どのような理由が考えられるのですか?
竹信:現実的な理由がいくつかあると思います。
その一つとして、法科大学院の時間的・経済的負担が大きいことだと思います。
第4、法科大学院という制度・司法試験の仕組み
―法科大学院とはなんですか。
竹信:法曹を目指す人が行く専門職大学院です。ロースクールと呼ぶこともあります。今の制度では、原則として司法試験を受けるためには法科大学院を出ないといけないのです。
―原則ということは、例外もあるのですか。
竹信:法科大学院を経由しなくとも、予備試験という試験に合格すれば、司法試験の受験資格を得ることができます。ただ、法科大学院を出て受験している人の方がだいぶ多いですね。
―例えば、仕事やアルバイトをしながら法科大学院に通うことはできますか。
竹信:不可能ではないですが、実際問題としてはかなり難しいと思いますよ。法科大学院の授業もみっちり入りますし、その予習復習だけでなく、司法試験の準備もしていかなければいけませんから。
―法科大学院は何年間通うのですか。
竹信:2年から3年です。
―その間働けないとなると、①親御さんの援助を得るか、②貯金してから法科大学院に入って挑戦するということになりますね。お医者さんと歯医者さんの大学も6年制ですが、司法試験に挑戦することも、時間的にも経済的にも大変なのですね。
竹信:他にも、③奨学金をもらったり、借りたりする手もありますよ。
―もらえるならいいですけど、借りたら返さなきゃいけませんよね。ちなみに学費はいくらぐらいかかるんでしょうか。
竹信:国公立の法科大学院で、入学金が30万円くらい、授業料が年間80万円くらいです。私立の法科大学院だとそれよりも高いです。
―親御さんのいる実家から通っていない学生さんは、家賃や食費も賄わないといけないから、法科大学院に行って司法試験を目指すということは大変な決断になるのですね。
ところで、法科大学院を受験する人の数は増えているのですか。
竹信:「法科大学院」、あるいは「ロースクール」の制度ができたのはもう10年以上前になります。
志願者の数は、その最初の頃と比べると格段に減っています。データの読み方によっては、志願者が最盛期の1割くらいになってしまったという人もいます。
―法科大学院の数が減ったということはニュースで見たことがあります。
竹信:そうなんです。
実際、法科大学院の数は当初の半分くらいに減ってしまったんですね。
―そうすると、親御さんが暮らす地元の法科大学院がなくなってしまった、なんてこともあるのでしょうね。
竹信:そうですね。
もともと法科大学院は、全国各地で教育を受けられるよう、各地に配置しようという目標も持っていたのです。しかし、大都市部以外の地域では、法科大学院そのものが無くなってきたという問題があり、出身地が地方の法曹志願者には、厳しい環境になっています。
―そのほかにも法曹の志願者が減っている理由があるのですか。
竹信:司法試験の合格率が低く、司法試験に挑戦するリスクが高いからだ、という人もいます。
―現在の司法試験の合格率はどれくらいなのですか。
竹信:最近は25%くらいですね。
―意外と高いような気もしますけど・・・・。
竹信:たしかに、昭和の時代には1〜2%ということもありました。
ただ、今は法科大学院を卒業しないと原則として司法試験を受験できませんから、受験者数が当時よりも絞られています。その上で合格者は当時より増えていますから、昭和の時代よりは合格率は上がっていますね。
―合格率が25%でも低いという意見があるのですか。
竹信:今の法科大学院の制度を作ったときは、合格率は7〜8割にしようということを考えていたようです。しかし、いくつかの誤算が重なって、現状25%くらいの合格率になっています。なお、法科大学院の卒業後、司法試験は5年間で5回まで受験できます。
―受験回数の制限があるのですね。
ところで、合格率に関しては、どのような誤算があったのですか。
竹信:まず、新しい制度であった法科大学院の受験者の数が想定していたよりも多くなったことと、認可された法科大学院の数が多く、卒業生、つまり司法試験の受験者が増えたということが原因だと思います。
先ほどは、各地方に法科大学院があれば、全国の法曹志望者の経済的負担が減るという趣旨の話もさせていただいたのに、ちょっと矛盾するお話しになってしまい、すみません。
ただ、合格率が低いということは、司法試験に挑戦するリスクが高いということになりますので、法科大学院の受験者が最近減ってきている一因になっているのかもしれません。
―受験者が減ってきても、合格率は上がらないのですか。
竹信:合格者も、政府は当初、最低でも1年に3000人を目標にしていました。
しかし、実際の合格者数は2000人くらいで頭打ちになって、今は年1500人くらいになっています。
―なぜ合格者数は増やさなかったのでしょうか。
竹信:いろいろな理由があると思いますが、法曹の社会的需要が想定よりも伸びていないからとか、法科大学院における2年又は3年という短期間で一定の水準まで急速に人材を育て上げるということが難しかった等の意見があります。
―減らしたり、増やしたりと中々難しい問題があるのですね。
ところで、ここまで法曹の志願者が減っている理由をうかがってきましたが、法曹の志願者が減ると、何か困ることがあるのでしょうか。
竹信:まず、志願者が減るということは、能力・気力・正義感などを併せ備えた人材が司法の世界に十分に入ってこなくなるということです。
裁判官も、検察官も、弁護士も、裁判制度を支える任務があるわけですが、一定の水準を満たした人材を集め続けないと、長期的にみて、裁判制度や社会における紛争を解決する機能が弱くなってしまうおそれがあります。
―それは困りますね。
では、結局のところ、司法試験の合格水準をもっと厳しくしたほうがいいのではないですか。
竹信:それは一つの方法だと思います。
ただ、先ほど申し上げたように、司法試験の合格水準を上げる、つまり、合格率を下げるということになると、さらに志願者が減ってしまうのではないか、という悪循環も懸念されるわけです。
第5、より良い裁判制度の実現に向けて
―他に法曹志願者が減って困ることはありますか。
竹信:法科大学院制度が目指した方向の一つに、法学部以外で勉強してきた人、わかりやすくいえば技術系の勉強をされてきた方とか、別の仕事をしてきた人、わかりやすくいえば、社会人経験者とかを司法の世界に呼び込もうという方向性があったわけです。
―第119回の知恵袋で、司法委員や調停委員という法律以外の専門家や社会経験が豊かな人達が、裁判や調停をサポートしているという話がありましたね。
それと同じような考え方でしょうか?
竹信:そうですね。
多くの人が納得できるような裁判制度にするためには、いろいろなバックグラウンドを持った人が裁判制度に関与することが有効だといわれます。暗記する能力も必要な司法試験の合格水準を闇雲に上げてしまうと、若い人達だけではなく、法律とは別の方向性で勉強や経験を積んだ人材は法曹の世界に入ってこられないですよね。
―そうなんですね。
法曹の世界が求めている人材が、法律に対する専門性だけではなく、多様性も求めていることがよくわかりました。
では、これからどのようにすれば、志願者の数や人材の多様性を確保できるのでしょうか。
竹信:難しい問題ですね。
法科大学院制度については、今政府で改革案を考えているところです。例えば、飛び級を利用するなどして早く卒業できるようにするとか、法科大学院ごとに特色のある教育内容を競うようにするとかですね。
いずれにしても、一朝一夕には解決しない難しい問題です。
―最後に、メッセージをお願いします。
竹信:法曹は社会の紛争を予防したり解決したりする、やりがいのある仕事です。
札幌弁護士会では、より良い司法制度を提案し続けることで、多くの方が法曹、できれば弁護士を目指す気持ちになってもらえるよう頑張っていきます。
小学生のなりたい職業ベスト10に全く入っていない「裁判官」「検察官」「弁護士」ですが、「ユーチューバー」に負けないよう、子供達にもしっかり広報していきたいと思います。
―はい。今日はありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士秀嶋ゆかり,弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士竹信航介(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士竹信航介(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成30年2月20日