周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
本年2月の月間テーマは「犯罪被害者への支援」です。
弁護士と聞くと被疑者・被告人の弁護というイメージが強いかもしれません。しかし、近年、犯罪の被害にあわれた方への諸制度が整備されつつあり、弁護士がより積極的に犯罪被害者への支援活動を行っています。
札幌弁護士会でも犯罪被害者支援委員会を中心とした弁護士が熱心に犯罪被害者の支援に取り組んでいます。
本日の出演者は奥野舞弁護士です。
今週は、リベンジポルノ等、インターネット空間で行われる犯罪の被害にあわれた方の相談窓口や対処法について、丁寧に説明していきますので、ぜひお聞き下さい。
放送日 | 2016年2月16日 |
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ゲスト | 奥野舞弁護士 |
今週の放送 キーワード |
インターネット、名誉毀損、わいせつ物陳列、仮処分命令、慰謝料、プロバイダ、削除要請、IPアドレス、開示請求 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
2月は4週連続で、弁護士による犯罪被害者支援について取り上げることになります。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の弁護士、奧野舞(オクノマイ)さんです。
奧野:どうぞ、よろしくお願いします。
第1 インターネット犯罪について
— 先々週ご出演の吉田さんや先週ご出演の竹間さんと同じく、奧野さんも札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会に所属しているのですね。
奧野:はい。弁護士3年目,かつ犯罪被害者支援活動に携わって3年目とまだまだ未熟な若手ですが,犯罪被害者支援活動ではインターネット犯罪など,近年になって増加した新しい犯罪類型にも対応していく柔軟性と貪欲さが必要なので,若手の弁護士も活躍できる分野であると思います。
— さて、今日のテーマはただいまお話のあった「インターネット犯罪」ですが,例えば,どういったものが典型的な「インターネット犯罪」に当たるのでしょうか。インターネットといえば,自宅にパソコンがあったり,スマートフォンを持っていたりなど,今や国民にとって誰でも使えるツールですから,インターネット上のどういった行為が犯罪にあたるのか,知っておくことは重要ですよね?
奧野:そうですね。典型的な例を説明しますと,インターネット上の掲示板や,ツイッター・フェイスブックを代表とするSNSなど,不特定多数の人が閲覧できるサイトに,特定の人を非難・攻撃する言葉を投稿するだとか,裸の写真を投稿するといった行為が,刑法上の犯罪に当たる可能性があります。
— なるほど。たとえば,どんな罪に当たる可能性があるのでしょうか。
奧野:例えば,インターネット上に個人名を出して「殺す」などといった,特定の人に攻撃を加えるような内容の書き込みをすれば,脅迫罪に当たる場合があります。それから,個人名を挙げて,その人の私生活上の事実を勝手に投稿して,その人の社会的な評価を下げるようなことをすれば,名誉棄損罪に該当するおそれがあります。
— 先程,人の裸の写真を勝手にインターネットに投稿する,という例がありましたが,これはどんな罪に当たるのでしょうか。
奧野:「わいせつ物陳列罪」や「名誉棄損罪」に当たる可能性があります。
わいせつ物陳列というのは,裸の写真はわいせつ物に当たりますので,それを不特定多数の人が見られる状態にした,ということ自体が,犯罪に当たるということです。
第2 名誉毀損について
— 名誉毀損といえば,よく,週刊誌の出版社が芸能人について嘘か本当か分からない記事を書いて,訴えられているのをニュースで聞きますが,わいせつな画像の投稿でも,名誉毀損罪に当たるのですか?
奧野:そうです。名誉毀損は,人の私生活上の事実で,他人に公開されることを望まないようなことを,勝手に不特定多数に公開された点を,被害の内容と捉えます。女性の上半身や下半身が裸で写った画像はわいせつ画像の典型ですが,写真に映った方からすれば,勝手にインターネット上に裸の写真を投稿されるわけですから,「他人に見られたら恥ずかしい」,つまり公開されることを望まない情報を,不特定多数に公開されたという意味で,名誉毀損に当たるのです。
— なるほど。それにしても,人の裸の写真なんて,どこから入手してくるのでしょうかね。
奧野:最近,ニュースでも「リベンジポルノ」という言葉を聞くことがあると思います。これは,交際関係にあった男女が破局した後,振られた側の男性が女性を逆恨みして,交際当時に撮影していた女性の裸の画像や性交渉中の画像や動画を,破局後に勝手にインターネット上に公開することをいいます。このように,元々親密な関係にある人物が裸の画像を持っているという場合が多いです。
第3 犯罪被害に遭った場合の相談窓口
— これまでお話に出てきたような被害に遭った場合には,どこに相談したらよいのでしょうか。
奧野:まずは,警察に相談に行くことをお勧めします。それと同時に,弁護士にもご相談下さい。警察に相談に行ってもらう理由は,インターネット犯罪では,「誰が問題のある投稿したのか」,つまり「誰が犯人なのか」というところを特定することが難しい犯罪です。警察の捜査では,①まず問題のある投稿をした人物のパソコンの「IPアドレス」を特定して,②このIPアドレスを使っている人物は誰か・・・といった流れで犯人を絞っていくことが多いですが,IPアドレスは,犯罪被害に遭った方ご自身で調べて突き止めることはなかなか難しいですから,まずは被害に遭ったら警察に相談に行き,捜査をしてもらうように話をすることが大切です。
— そうなんですね。弁護士さんにも相談をした方がよいというお話ですが・・・?
奧野:はい。インターネットの投稿内容によっては,警察が積極的に捜査に取りかかる事件もあれば,捜査の上でどこか難しい点があって事件としては受け付けてもらえない場合もあります。そういう時は,弁護士の出番です。
例えば,インターネット上でのわいせつ画像の投稿で名誉を毀損された人は,訴えを起こして,投稿をした人物に慰謝料の請求を求めたり,わいせつ画像の削除や投稿の禁止を求めることが出来ます。
第4 わいせつ画像投稿に対する慰謝料の金額
— 慰謝料の請求ですが,大体どのくらいの慰謝料請求が可能なのですか。
奧野:そうですね。それは,どのような投稿内容が不特定多数に公開されたのか,何回投稿されたのか,どのくらいの範囲まで投稿内容が拡散したか,といった様々な状況にもよって変わりますが,過去の裁判例などを調べてみると,数十万円から200万くらいの範囲の金額が慰謝料として支払われることが多いと思います。
第5 わいせつ画像の投稿禁止を求める手段
— それから,わいせつ画像を投稿された場合に,投稿した人物に対して画像の削除や投稿禁止を求めることが出来るというお話がありました。
奧野:まず,投稿禁止については,投稿をした人物に対して,「今後一切,被害者のわいせつ画像の投稿をしてはいけない」という命令を出してもらうよう,裁判所に申立てをすることができます。この手続は,「仮処分命令の申立て」といいます。
— 仮処分の申立て,というのは,裁判とは違うのですか?
奧野:皆さんが普段耳にする「裁判」は,「訴訟」という手続で,月に1回程度のペースで弁護士が裁判所に出廷して,書類の提出などを行って,判決をもらうというもので,最終的に判決が出て解決するまで,半年以上かかることも多いです。
他方で,「仮処分命令の申立て」は,訴訟とは違い,申立ての書類を裁判所に提出してから約2週間のうちに1回目の裁判所出廷の機会があり,その後,必要な情報を裁判所が整理して,和解をしたり,裁判所が命令を出すなどして,申立てから1~2ヶ月という短期間で裁判所の判断をもらうことができる手続きです。
— 仮処分の申立の方が,インターネット犯罪の被害者にとっては,メリットがあるということでしょうか。
奧野:そうですね。皆さんも,自分の裸の画像が勝手にインターネットに投稿された場合のことを想像していただきたいのですが・・・画像はどんどんインターネット上で広まり,どこの国の誰が閲覧しているかも分からず,もしかしたら赤の他人が画像を自分のパソコンに保存しているかもしれません。このように,インターネット犯罪の被害を受けた場合,とてつもないスピードで被害が拡大していくので,のんびりしているのではなく,とにかくまず問題画像の持ち主に,手持ちの画像の消去や,今後の投稿の禁止を約束させて,被害を最小限度に抑えることが,とても大切です。その意味で,解決のスピードが速い仮処分の利用は,インターネット犯罪の被害者にとってメリットがあります。
第6 投稿された画像等の削除要請
— なるほど。被害者が自分で把握しきれないところまで被害が広がる怖さがあるのですね・・。
投稿した人に画像削除や投稿禁止を求めるほかに,被害を少なくする方法はあるのでしょうか?
奧野:もし投稿された内容が,名誉毀損などの権利侵害にあたる場合,通称「プロバイダ責任制限法」という法律に従って,被害者からインターネット上のサイトの管理運営者やプロバイダに対して,投稿された画像等の削除を要請することが出来ます。それから,プロバイダに対しては,投稿した人物のIPアドレスを開示するよう請求することもできます。
そして,投稿画像などの削除要請をしたり,IPアドレスの開示請求をする際にも,先程説明した,裁判所の仮処分命令の申立て手続を使う方法もあります。
— なるほど。投稿した人物自体ではなく,インターネットサイトの管理運営者やプロバイダ自体に請求していく方法もあるのですね。
奧野:それから,インターネット上の名誉毀損被害は人権侵害の問題ですから,法務省の「人権擁護局」というところに相談をしていただき,画像削除の申請を人権擁護局を通じて行ってもらう方法もあります。
— そうなんですね。ずいぶん,色々な窓口があるものですね。このラジオを聴いている方が,今日奧野さんが話した内容を覚えるのも大変な作業ですね。
奧野:私も,実際にインターネット犯罪被害の案件を自分で取り組むまでは,どこに何を請求できるのか,どうすれば最短で被害者の方を救済できるのか,色々調べて工夫をしました。インターネット犯罪は,ひと昔前には存在しなかった犯罪の類型だけに,これからも被害を少なくするための法制度が整備されていく可能性がありますので,被害者支援に携わる弁護士として,最新の情報を常に取り入れていかなくてはいけないと思っています。
第7 犯罪被害者弁護ラインについて
— 普通の生活を送っている中で,インターネット上で予期せぬ犯罪被害に遭った方が,自分自身だけで最新の情報を調べて対処法を見つけるのも,なんだか大変そうですね…。奧野さんが最初にお話していた「まず警察と弁護士に相談」ということの理由が良く分かりました。
奧野:そうですね。前回,竹間弁護士の回で紹介があった,札幌弁護士会の「犯罪被害者弁護ライン」という無料相談ダイヤルも是非ご活用いただきたいと思います。
— その「犯罪被害者弁護ライン」というのはどういうものか,改めて教えてもらえますか?
奧野:はい。「犯罪被害者弁護ライン」とは,札幌弁護士会の,「犯罪被害者支援委員会」という,犯罪被害者支援活動に日々積極的に取り組んでいる弁護士の集まりが,交代制で決められた曜日・時間帯に,皆様の犯罪被害に関するご相談に応じるというものです。
— なるほど。相談希望の方は,何曜日の何時頃にお電話すればよいのでしょう?
奧野:毎週月曜日の午前10時30分から午後0時30分,それから,水曜日の午後5時から午後7時までとなっております。電話番号は,011-251-7822(※2回繰り返す)です。インターネット犯罪についても,私たち犯罪被害者支援委員会のメンバーは,日々自分たちが経験したケースについて,情報を共有しながら皆様の支援にあたっていますので,是非ともお電話下さい。
— 次回は,「犯罪被害者支援活動の今後」というテーマと伺っております。弁護士による犯罪被害者支援活動が活発化してから,そう長くは経っていないと聞いておりますので,被害者支援活動の今後の展望についてお話が聞けたらと思っています。
それでは,次回もよろしくお願いいたします。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士奧野舞(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士奧野舞(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年2月16日