周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
7月の月間テーマは「弁護士の見つけ方・相談・依頼・契約について」です。
ゲストは、プロデューサーの肝いりで選ばれた札幌弁護士会の大デブ小デブこと、後藤雄則弁護士と高橋健太弁護士。
法律相談センターという弁護士会の相談窓口の運営をしている後藤弁護士と広報担当の高橋弁護士が弁護士に依頼した後の流れについて、前回放送で好評だった…かどうか別として、本人達はすっかり気に入ってしまったらしい小芝居を再度織り交ぜながら、ご説明します。
弁護士は、「依頼したら終わり」ではなく、「依頼してからからが始まり」ですから、依頼した後も重要です。今回は、弁護士を探している方だけではなく、既に弁護士を依頼中の方にも関係します。
是非聞いてご参考にしてください!
放送日 | 2016年7月19日 |
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ゲスト | 後藤雄則弁護士、髙橋健太弁護士 |
今週の放送 キーワード |
弁護士,裁判,交渉,調停,着手金,報酬,場環境,紛争解決センター,柔軟な解決,少額,使用者,労働者,早期解決,民事調停,調停前置主義 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
前回に引き続き,「弁護士の見つけ方・相談・依頼・契約」というテーマで放送します。
ゲストは札幌弁護士会に所属の後藤雄則(ごとうたけのり)さんと髙橋健太(たかはしけんた)さんです。
後藤・髙橋:よろしくお願いします。
第1 弁護士への依頼について
— 前回までのテーマは,相談や契約でしたが,今日は実際に依頼した後の流れについてお願いしたいと思います。
後藤:依頼と一言に言っても,手続きや内容は,様々ですね。
手続きで言えば,相手との話し合い,裁判所での調停や訴訟から,単に書面を作成するだけのものもあります。
また,内容は,民事で言えば,交通事故,離婚,遺産分割,破産などいろいろあり,刑事事件などもあるため,本当に多岐にわたります。
髙橋:他に,株主総会に出席なんて依頼もあります。
後藤:今でいうと第三者としての調査もありますね。あの調査がどうかっていう問題はありますけど。私は,ああいう調査ではないですが,取引先が本当に支払えないかの調査をしたこともあります。
— 弁護士って,意外と色んなことをするんですね。
後藤:まぁまずは,一般的な交渉事件を念頭に置いて,話をしてみましょう。
第2 受任通知について
— 依頼を受けてから,最初にすることは何ですか?
髙橋:まずは,受任通知を出すことが多いですね。
— 受任通知とはなんでしょう。
後藤:要するに,弁護士がこの人の代理人になりましたよ,ということを知らせる書面です。
それで窓口がこちらになります,ということをお伝えする意味があります。
通常は,合わせて自分側の請求を書くことが多いです。
離婚を求めますとか,貸した100万円を返して下さいとか書いたりしますね。
髙橋:なので,受任通知ではなく,請求書というタイトルで送ることもあります。
後藤:そういう書面ですから,主張が明確かつ正確であることが望ましいと思います。
髙橋:とはいえ,受任通知や請求書を出さなければ,事件が始まらないことも事実なので,早く出したいのも正直なところで。
私は,依頼を受けた後,可能な限り速やかに受任通知や請求書の案を作成して,それを叩き台にして打合せをします。
依頼者に目を通してもらうことで,記載してある事実に間違いがないか,依頼者の希望どおりの請求となっているか,などのチェックが可能になります。
— なるほど。
髙橋:依頼したばかりの頃は,依頼者も弁護士に気を遣うかもしれませんが,最初に希望や意見をはっきり言うことが大切です。
どうしてかと言うと,内容にもよりますが,いったん請求を出してしまうと,後からの訂正は難しい場合もあるからです。
後藤:なんかすごく髙橋弁護士が良い弁護士にみえてきましたけど。
— 優秀だったんじゃないですか。
後藤:ただ,今回の原稿が遅かったので…
髙橋:それを言いますか。
第3 弁護士との打ち合わせについて
後藤:まあ,前回に引き続き,受任直後の打合せというのを,ショート寸劇でやっていきたいと思います。
— また寸劇が始まりますね。
髙橋:後藤先生,寸劇,気に入ってますね。
後藤:何か不満でもありますか?
髙橋:いえいえ,ないです…。
後藤:私が今回は,気持ち悪いんですけど,不貞行為の慰謝料請求を依頼した女性として,「後藤たけ子」という名前らしいんですけど,髙橋先生が松本潤そっくりの弁護士ということでやってみたいと思います。
髙橋:よろしくお願いします。
では,前回のご相談をふまえて,私の方で受任通知の案を作成してみました。
後藤たけ子さんのご意見を聞かせて下さい。
後藤:ええと,当職は…代理人です…なるほどなるほど。
不貞行為が原因で離婚をすることになったので,慰謝料300万円を請求します…ふむふむ。
わかりました,この内容で大丈夫です。早くベッキーに送って下さい。
髙橋:いつからあなたの夫はゲスの極み乙女になったんですか。
後藤:そうでしたね。
実は,真面目な意見が2,3あります。
髙橋:先にそっちをお願いします。
後藤:慰謝料が300万円となっているのですが,これは安すぎます。
1億円にして下さい。
髙橋:い,いちおくですか?
後藤:はい,私の精神的苦痛は,1億円もらっても足りないくらいです。
髙橋:なるほど…。
とりあえず,他の意見も聞いてみましょう。
後藤:はい,あとは,「1億円を払わなければ,命はないぞ」って早く書いて下さい。
すぐ送って下さい。
髙橋:そんな直接的な…。
後藤:直接的すぎますか?
だったら,「夜道で背後に気をつけろ」で我慢します。
髙橋:いや,そういう書き方の問題じゃないんですよね。
そういうことを書くと,かえってこちらが脅迫罪や恐喝罪などにあたってしまうおそれがありまして…。
後藤:色々うるさいですね。
あとは,この一番最後に書いてある,「依頼者本人への連絡はせず,一切の連絡は当職まで」というのはカットして下さい。
先生に依頼はしていますが,私も直接ベッキーに一言言ってやりたいので。
髙橋:いや,ベッキーはもういいですから。
第4 請求金額について
— はい,ストップ!
ここで止めますね。
後藤たけ子さん,かなり言いたい放題だったように思いますが。
髙橋:いや,でも,ここまでかどうかは別として,けっこう似たようなことはありますよ。
— そうなんですか?
本当に慰謝料で1億円請求することがあるんでしょうか?
髙橋:1億円は極端な例かもしれませんが,不貞行為の場合に最低でも1000万円くらいは請求したいという希望は時々聞きます。
慰謝料の額の決定方法については,実は,法律で何も決まっているわけではないので,ある意味で,請求者次第ということになります。
— では,高額の慰謝料を請求することによるデメリットは何もないのでしょうか。
後藤:そうですね,あ,ここから声を戻して喋ります。
慰謝料に限った話ではないですが,請求額が大きくなるにつれて,訴訟の際に裁判所に支払う手数料が高くなります。
具体的には,請求額が100万円のとき手数料は1万円,1000万円のとき手数料は5万円,1億円になると裁判所に印紙として32万円も払わなくてはなりません。
— 訴訟を起こすだけで,32万円も裁判所に払うんですか。
後藤:そうです。
もちろん,これは弁護士費用とは別にかかります。
なので,請求額が高ければ良いという問題ではないと思いますし,あとは,後々裁判となった場合に,あまり過去の裁判例とかけ離れた請求をしている場合,本人が冷静でないという印象を裁判官に抱かせる危険性もあります。
なので,過度な請求はいろんな意味でプラスにならないという可能性が残ると思います。
— 請求額が高すぎてもダメ,低すぎてもダメ。
どうすれば良いのでしょうか?
髙橋:過去の事例を参考にします。
その弁護士自身が担当した過去の事例もあれば,法律事務所では「判例検索」システムを導入していることが多いので,全国の判例・裁判例から同種の事案を検索することもできます。
私はけっこうアナログで,いまだにガラケーですけど,未だに参考書や事例集などの本を参考にすることもあります。
後藤:私はスマートフォンですけど。
まあ,ただ,同じ事件は2つないので,過去の事例にとらわれる必要はないと思っています。
依頼者と弁護士が,その事案をふまえて,請求額についてこれが妥当だということを十分に話し合うことが大事だと思います。
これは1億だ,と思った事案であれば1億請求することは弁護士としては躊躇はしません。
ただ,なかなか日本の裁判例では交通事故でお亡くなりなったケースの慰謝料でも2500万円というのが一つの基準なので,慰謝料で1億というのはかなり難しいと思います。
— 次に,「慰謝料を払わなければ,命はないぞ」という意見もありましたが。
髙橋:そうですね…これはどれだけ判例を調べてもアウトでしょうね(笑)
後藤:確かに,会社で例えば従業員が横領したとか遣い込みをしたとかいうようなケースでは,お金を払ってくれなければ刑事告訴をします,というようなことを書くことはありますが,「命はないぞ」などと書いてしまうと,逆に間違いなく捕まってしまいますね。
髙橋:ただ,仮にこのような意見であっても,依頼者の方に思っていることを弁護士に言ってもらうのは,それくらい苦痛だったんだということを理解するためにも,良いことだと思いますけどね。
第5 弁護士との連絡について
— 「依頼者本人への連絡はせず,一切の連絡は当職まで」という一文を削除して下さい,という点についてはどうでしょうか。
後藤:結論としては,これも多くの弁護士は断ると思います。
— どうしてでしょうか?
後藤:一番の理由は,交渉の窓口が2つになることを避けたいというのが一番ですね。
慰謝料300万円を請求しているケースで,一方で代理人弁護士が強気に減額に応じないと言っているにもかかわらず,他方で本人がやっぱり仕方ないか,減額いいよみたいなことになってしまうとばらばらになってしまいますしね。
それで交渉がうまくいかず,依頼者にとって不利益となる可能性があります。
また,相手方だって混乱しますし,もめている当事者同士のやりとりは,どうしても感情的になるため,紛争がのびてしまう可能性があると思います。
離婚問題のときにお子さんとの面会とかの時間の連絡などはケースによっては例外的に直接やってもらうことはありますが,出来るだけ弁護士は当事者のやりとりは避けてもらう傾向にあります。
髙橋:なので,弁護士への依頼を検討される方は,いったん弁護士に依頼した後は,相手方に直接連絡をとらないというルールを守ってほしいと思います。
第6 依頼者・弁護士間のルールについて
— なるほど,依頼後のルールというのがあるんですね。
後藤:そうですね,弁護士への依頼後は相手方に直接連絡をとらないというのは,おそらくほとんどの弁護士がこのルールをお願いすると思います。
他に,破産などの債務整理事件では,ルールがけっこうありまして,当然ですけど依頼後は一切お金を借りてはいけませんとか,お金を払っちゃいけませんとかのルールもあります。
髙橋:事案によっては,依頼者と弁護士で個別のルールを作る場合もあります。
後藤:それも本当に事案によりけりなので,例えば,本当は全然問題ないのですけど事案によっては親と連絡をとるのをしばらくやめてもらうですとか,それは家族の関係のトラブルのような場合ですよね。
そういうことでお願いする場合もあります。
— 面会交流は髙橋先生は何かルールありますか。
髙橋:そうですね,先ほど後藤先生から面会交流だけはご自身で連絡をとってもらう場合もありますよという話がありましたが,面会交流を実施するたびに簡単でいいので必ず連絡して下さいというルールを作ることもあります。
後藤:まあ逆にこっちがルールを作られることもあります。
何があってもすぐ連絡して下さいとかね,それは最大限やるようにしていますけど。
先々週の放送でも話したように,依頼者と弁護士にも相性の問題がありますので,コミュニケーションをしっかりとることが大事だと思います。
ルール,ルールと言われても,何でそんなことしなくちゃいけないのと思ったら,疑問に思ったことはすぐ聞いてもらって全く構わないと思います。
髙橋:依頼者が意見や質問を言うのを我慢して,依頼者と弁護士の関係が悪化してしまうというのは,一番もったいないと思いますね。
お互い言い合って悪化するのは仕方ないですけど,言わないで悪化というのはやはりもったいないと思います。
第7 受任通知送付後の流れについて
– 我慢はしないで言いたいことは言った方が良いですね。
では,以上のような経過を経て,受任通知や請求書を発送した後の流れを簡単に教えて下さい。
後藤:請求書送って,はいと払ってもらえれば,弁護士として,言い方は悪いですけど,こんなに楽な仕事はないのですけど,弁護士から受任通知や請求書を送っても,請求どおりに払ってくれるというケースは,残念ながらそう多くはないのですよ。
髙橋:そうですね。
私の同期の弁護士で,請求書に送金先の口座を書いてもどうせ払ってこないので,ついに送金先の口座を書くのをやめた弁護士がいました。
後藤:それは諦めが早すぎるので,弁護士に向いてないかもしれないですね。
髙橋:まぁそれはさておき,こちらの受任通知や請求書に対し,相手方は,書面なり,口頭なりで反論をすることになります。
後藤:請求を受ける側で弁護士を依頼するときも基本的に同じです。
依頼した後は,そういうびっくりした書面が来た後,弁護士のところに行っていただいて,弁護士と打合せをしながら,こんな話は違うとか,こんなことないでしょということで,回答書を作ってもらって,弁護士に送ってもらうという流れになります。
髙橋:双方の主張をするうちに,お互いにある程度妥協をして,このへんで和解しましょうか,示談しましょうかとなる場合があります。
後藤:他方,話はしたものの,残念ながら考えが遠くかけ離れていて,話にならない時もありますし,何割かは,受任通知や請求書を送っても何の回答もないというケースもありますね。
さて,そういうやつに対しては,訴訟や調停などをすぐ起こすことになりますね。
髙橋:今,やつって言いませんでしたか?
後藤:言ってないですね,何とか編集でお願いします。
今回のテーマとの関係で,裁判とか,調停の手続きの細かいところは割愛しますが,契約について補足させて下さい。
前回話したとおり,依頼を受ける際,原則として契約書を作成しますが,1枚の契約書に,交渉の場合は着手金いくら,訴訟の場合は追加でいくらと取り決めることもありますし,交渉の場合だけを合意し,訴訟の場合は別途と取り決めることもあります。
契約書の形は色々あると思います。
– 後者の場合であれば,訴訟や調停などを起こす前後に,再度契約書を作成するということですね。
後藤:はい,そうですね。
訴訟や調停が始まると,1か月から1か月半に1回くらいのペースで期日が進みますので,それは弁護士にお任せいただいて弁護士が出ることがほとんどで,調停はご本人にもいていただくことがありますが,基本的には訴訟の場合はお任せいただくということになると思います。
髙橋:とはいっても,訴訟の間,頼んだらもう安心だということで依頼者の方が何もしなくて良いかと言うと,そうではなくて,依頼者と弁護士は,裁判の期日と期日の間に打合せをして,次はこういう書面を出しましょうということで提出の準備をしたり,和解の条件について話し合ったりします。
後藤:なかなかそれが簡単なようで,簡単ではないのが…。
本当にスムーズにいく場合と,本当にお客さん,依頼者の方と何回も何回も話をして,1年,2年と話し合いをしてやっていくケースもあるので,すごく仲良くなっちゃうケースもありますし,色んなお土産もらっちゃうこともありますし,話し合って一生懸命進めていくことが大事かなと思います。
– コミュニケーション,大事ですね。
後藤:はい。
– ということで,弁護士に依頼した後の流れということでお話しいただきました。
次回は今月のテーマである「弁護士の見つけ方・相談・依頼・契約について」に関するQ&Aをお話し頂けることになっています。
今日はお二人ともありがとうございました。
後藤・髙橋:ありがとうございました。
– さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士後藤雄則(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士後藤雄則(札幌弁護士会)
弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年7月19日