周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
4月の月間テーマは、「消費者被害・消費者トラブル」です。
消費者保護委員会の4名の弁護士に週替わりで、身近な生活の中に潜む落とし穴について分かりやすく説明いただきます。
第3週目の今回は、山田光洋弁護士をゲストに迎えて、未成年者が陥りやすいインターネット上の消費者トラブルについて解説いただきます。
山田弁護士は、スマホを持っていないとのことですが、とても臨場感のある(?)解説になっています。
ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年4月18日 |
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ゲスト | 山田光洋弁護士 |
今週の放送 キーワード |
インターネット,定期購入,契約,錯誤,未成年者,電子消費者契約法,電子商取引及び情報財取引等に関する準則 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を週替わりのテーマで放送します。
4月のテーマは「消費者被害とその対応」。本日は、その第3回目で、ゲストは札幌弁護士会所属の山田光洋(やまだ みつひろ)さんです。
山田:どうぞよろしくお願いします。
―では、自己紹介をお願いします。
山田:はい、私は札幌弁護士会の消費者保護委員会に所属しています、山田光洋といいます。今回は、「インターネット上の消費者被害と未成年者」というテーマでお話しをさせていただきたいと思います。
―どうしてこのテーマに決まったのですか。
山田:ここ数年は、スマホの普及もあって、インターネットを通じた消費者被害が拡大し、相談件数も増加していると聞いています。
そのため、このテーマでお話しさせていただくことになりました。
ただ、少し問題がありまして…
―どんな問題ですか?
山田:実は私、そのスマホを持っていないんですよね。
―えっ、どうしてですか。
山田:スマホを使うと、私も消費者被害に遭ってしまうんじゃないかと思いまして(笑)。冗談です。使いやすいものを長く使っているだけです。
ただこの後の説明は、実際によくあるケースに基づいてちゃんと解説しますのでご安心ください。
第1 インターネットにおける未成年者の消費者被害
―それなら安心です。今回は特に未成年者の被害に着目して解説いただけると聞いていますが。
山田:はい。先々週の回で、小田嶋弁護士が少し触れましたが、消費者被害に遭いやすいのは高齢者と若者なんです。
―なんとなくイメージが湧きますね。
つまり、若者の方の被害では特にインターネットに関連しているものが多いというわけなんですね。
具体的にどんな被害例があるのですか。
山田:今回は、最近よく相談が寄せられる「初回だけお試し価格で安かったので1回分だけネットで注文したら、実は定期購入コース、つまり1回分ではなく複数回分のコースを契約してしまっていた」というケースを紹介したいと思います。
―初回だけお試し価格で、安く買えるというのは、ネット販売かどうかに関わらずよくある売り方ですよね。
山田:そうです。このタイプの事案でよくあるのは、化粧品やダイエット食品なんかです。
例えば、有名なモデルさんのブログを見ていたら、そのモデルさんが、ブログでダイエット食品を紹介している、なんてことがありますよね。
10代の中高生の女性にとって、モデルさんのブログで紹介されているダイエット食品はすごく魅力的で買いたいと思いますよね。
―そうですね。
山田:では、その紹介されたダイエット食品の広告を気になってクリックしたとしましょう。するとその食品のサイトに飛びます。そのサイトの一番上には、「モデル〇〇さんも使っているダイエット食品。通常、1週間分で8000円のところ、初回分限定で1500円」と書いています。何と通常価格より80%以上も安いです。
―それは安いですね。
山田:そして、そのすぐ下に「購入する」というボタンがあります。女子中学生に戻った気持ちで、さあ、どうしますか。
―中学生にとって8000円はきついけど、1500円ならお小遣いの範囲内だし、これで憧れのモデルさんみたいになれるなら、「購入する」ボタンを押しちゃうかもしれません。
山田:はい。乗っかっていただいてありがとうございます。
このボタンを押すと、画面は切り替わり、購入者の情報を入力するページに飛びます。そこで、氏名、住所、電話番号などを入力します。そしてそのすぐ下には、「未成年者の場合には親の同意が必要です」と書かれてあり、その下には「注文を確定する」というボタンがあります。さあ、どうしますか。
―1500円だから親に相談しなくてもいいやと思って、すぐに注文確定ボタンをクリックしますかね。
山田:そうですよね。そうすると、「注文が確定しました」と出てきて、後日商品と請求書が届きます。そこで、1500円を支払い、ダイエット食品を食べるのですが、翌週に、驚くべきことが起こります。
―どうなるんですか。
山田:何と、頼んでないのにまた同じダイエット食品がなぜか届いてしまいます。
しかも今度は8000円の請求書が同封されているのです。
―えっ、どういうことですか。
山田:疑問ですよね。そう思ってサイトに書いてある電話番号に電話をしたら、これまで送ったものを含め、4回分の代金2万5500円は支払ってもらいます、と言われてしまったのです。
―えっ、どうしてそんなことになっているのですか。
山田:実は、このダイエット食品のサイトの画面をよーーーく見てみると、その仕掛けがわかります。
―どんな仕掛けですか?
山田:つまり、このサイトは、ものすごく縦長のサイトなんです。最初に見える部分には、初回分限定で1500円と書かれています。それを少しずつ下にスクロールしていくと、そのダイエット食品の効能とか、実際に使った人の体験談とかが書かれてあります。
―そこはよくあるタイプの広告サイトですよね。
山田:問題はその次です。実はこの商品は、1週間分だけを1500円で買うということはできず、定期購入のコースになっていて、しかも4週間分以上購入しないと解約できないという条件がついていたのです。
そして、2週目からは当然元の値段の8000円に戻りますので、解約するには1500円に8000円×3週間分を加えた2万5500円を払わなければならない、となるわけです。このことは、すごく縦長のサイトを下の方までじっくり読んでいくと確かに書いていましたという事例です。
第2 予期せぬ定期購入に対する対抗策その1~契約の不成立
―なんか、ものすごくずるいように感じますね。一応書かれてある以上どうしようもないのでしょうか。法律的には何か対抗手段はないのでしょうか。
山田:いくつか方法が考えられます。一つ目は、そもそも、契約が成立してないと主張することです。
―でも、定期購入のコースということで「注文を確定する」というボタンを押しているので、契約は成立しているのではないですか。
山田:契約というのは、ちょっと難しい言い方をすると、お互いの意思の表示がぴったり合致することにより成立します。片思いじゃ駄目で、両思いじゃないと恋は成就しないみたいな感じです。
―余計にわからなくなりました(笑)。
山田:すいません(笑)。
つまり、買うほうは1週間分のみを1500円で購入するという意思を表示しており、売るほうは、定期購入コースとして販売するという意思を表示している状況では、実は、お互いの意思の表示は合致していないので、契約は成立していません、と主張することが考えられるわけです。
―そんな主張ができるのですか?
山田:今回のケースでは、サイトの一番上に「初回分限定で1500円」と書かれてあり、そのすぐ下にある「購入する」ボタンを押しています。そして途中の説明を飛ばしていきなり購入者情報の入力画面に飛び、注文確定ボタンを押しています。ですので、この状況では、消費者の側が1500円で初回分だけを購入する意思を表示したと言いやすい状況だと思います。
ただ、問題もあります。
―問題ですか?
山田:インターネット上のサイトにどんな画面が表示されていて、どのボタンを押したらどの画面に飛ぶかなんてことは、すぐに更新できてしまいます。ですので問題が生じた時点では既に事業者により修正され、証拠が何も残っていない、といったことはあるかもしれません。これがインターネット上の消費者被害の怖い部分の一つでもあります。
また、おっしゃる通り、サイトには定期購入のコースときちんと書かれており、その上で、注文を確定するボタンを押しているので、その内容の意思表示があったととらえられる可能性ももちろんあります。
第3 予期せぬ定期購入に対する対抗策その2~錯誤
―なるほど、では他にはどのような対抗手段があるのでしょうか。
山田:錯誤により契約は無効だ、と主張する手段もあります。
―さくご、ですか。聞き慣れない言葉ですがどんな意味ですか。
山田:まず、錯誤というのは、心の中で考えていることと、実際に表示したことが食い違ってしまうことです。民法には、錯誤のある意思表示は無効だ、というルールがあります。
今回の場合には、1週間分のみを1500円で購入するつもりだったけど、定期購入のコースを申し込んでしまった、だから無効だという主張が考えられます。
そして、申し込む際に重過失、つまり重大なうっかりですね、があった場合は、本来このような主張は出来ないのですが、インターネット上の取引については、電子消費者契約法という法律のルールを使うことができます。
―どういうことですか。
山田:この法律には、インターネット上の取引については、パソコンやスマホの画面上で、「申込内容に間違いがないですね」という確認画面をわかりやすく設けていない場合には、消費者には重大なうっかりがあったとはいえない、ということが書かれています。
―では、そのような場合は、うっかりしていても契約は無効だ、と言えることになるわけですね。
山田:その通りです。先ほどの事例では、購入者の情報を入力した後、「注文を確定する」というボタンを押したら、すぐに「注文が確定しました」という画面に飛んでいます。これだと、確認画面自体がそもそもないため、錯誤により契約は無効だ、といえることになります。
ただ、十分な確認画面を用意している業者もいますので、そのような場合には、この方法は使いにくいですね。
―十分な確認画面があるのに見過ごしてクリックした場合には、確かに自分のミスと言われてもしかたがない部分もありますよね。
でも、大人だったら自己責任と言われても仕方がない行為でも、女子中学生に細かな確認行為まで求めるのはかわいそうな気もしますが…
第4 予期せぬ定期購入に対する対抗策その3~未成年者の取消権
山田:そうですね。そこで、未成年者の取消権の話が出てくるわけです。
―未成年者のした契約が取り消せると言うことはよく聞く話ですが、どのような場合でも取り消せるのですか。
山田:どのような場合でも、というわけではありません。取り消せない場合がいくつかあります。ネット上の取引で特に問題になりやすいのは、未成年者が民法21条に規定されている「詐術」を行った場合です。
―「詐術」。詐欺の「さ」に魔術の「術」という漢字ですが、「うまく欺す」みたいな意味でしょうか?
山田:まあ、だいたいそんな感じです(笑)。
例えば、未成年者が、「自分は未成年者ではなく成年です」と嘘を言って、それを取引の相手方が信じてしまったような場合です。詐術を使って取引をした場合は、未成年者であっても取り消すことはできません。
―あっ、さっき紹介してもらった事案だと、「未成年者の場合には、親の同意が必要です」と書かれてあったのに、親に相談せずにすぐに注文確定ボタンを押してますよね。これだと、もしかして、詐術に当たって取り消せなくなってしまうのですか。
山田:確かに、さっきの事例だと、そう言えそうですよね。
―でも、今回は、中高生が騙されているような感じもするのですが。
山田:やはりそう思いますよね。実は、すぐにあきらめる必要はありません。「詐術」に当たるかどうかは、色々な事情を考慮して判断されます。明確な基準があるわけではないのですが、一つの参考として、ちょっと名前が難しいですが、「電子商取引及び情報材取引等に関する準則」というものがあります。
―本当に難しい名前ですね。それは何なのでしょうか。
山田:経済産業省が出しているもので、簡単に言うと、インターネット上の取引について、先ほどの民法のルールをどう使うかなどをまとめたものです。
この準則では、「詐術」を使ったといえるかについては、未成年者が何歳か、購入した物は何か、誰を対象とした商品なのか、事業者が設定する年齢入力のための画面がどのような画面か等の具体的な事情を考慮した上で実質的に判断する、とされています。
―じゃあ、先ほどの事例でいうと、どうなるでしょうか。
山田:もちろん、具体的な事情にもよりますが、先ほど紹介した準則の中では、詐術に当たらないとされる例として、「単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックさせる場合」や「利用規約の一部に「未成年者の場合には、法定代理人の同意が必要です」と記載してあるのみの場合」などが紹介されています。ですので、先ほどの事例では取消権を使える可能性が高いと思います。
―ありがとうございます。その他、未成年者のインターネット取引で注意すべき点はありますか。
山田:最近比較的多いのは、やはり、子どもが親のスマホを勝手に使って取引をしてしまい、思わぬ高額な請求を受けるという事例だと思います。
これについては、先ほど説明した未成年者取消権を使うことが考えられますが、これが使えるか微妙なケースも存在するので注意が必要です。
―それはどういうことですか。
山田:親名義のパソコンやスマホが使われたからといって、それだけで親が契約したことになる、というわけではありません。
しかし、本当に子どもが親の知らないうちに勝手に操作して契約を申し込んだのかを後々証明できないケースもありますし、親が契約した有料ゲームを子どもに使わせていたら子どもが勝手に多額の課金をしてしまった、というケースだと、全体として親が契約をしたものと判断されたり、もし子どもがした契約だとしても、それには親の同意があったのだから取り消すことができない、と判断されることも多いと思います。
ですので、親の名義で契約しているパソコンやスマホを子どもに使用させるときには特に注意しましょう。
―ありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士小田嶋真悟,弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士山田光洋(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士山田光洋(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年4月18日