周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
6月の月間テーマは、「インターネット上のトラブル」です。
第2週の今週は,前回出演した坂口唯彦弁護士のもとで司法修習をしていた大山洵弁護士が初登場します。坂口弁護士とは師弟関係にあり,半ば強制的に出演させられ,顔が引きつっていましたが,ラジオ番組なのでバレませんでした。
しかし、ラジオ番組初登場にもかかわらず、「ネット上で誹謗中傷されたりした場合の対応策」について,元気に説明していきます。
4週間にわたってお送りする「インターネット上のトラブル」大特集。
第2週を、ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年6月13日 |
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ゲスト | 大山洵 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
インターネット上の書き込みへの対応策,プライバシー侵害,名誉棄損,書き込みの削除,発信者の特定,プロバイダ責任制限法,テレコムサービス協会,IPアドレス,素早い対応の必要性 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜の午前9時15分から15分間,役立つ情報を週替わりのテーマで放送します。6月のテーマは「インターネット上のトラブル」。本日は,その第2回目で,ゲストは札幌弁護士会所属の大山洵(おおやまじゅん)さんです。
大山:どうぞよろしくお願いします。
―では,自己紹介をお願いします。
大山:札幌弁護士会の広報委員会の委員をしている,弁護士の大山といいます。先週出演した坂口弁護士の元で司法修習をしていた関係もあって,坂口弁護士から出演の打診がありました。
師弟関係だったのもあり,半ば強制ではあったのですが…。
でも,とても辛い,失礼しました,とてもいい機会を頂いたと思っておりますので,どうぞよろしくお願いします。
―弁護士会の上下関係については噂で聞いていますよ。よろしくお願いします。
それでは,早速ですが,今回のテーマは何でしょうか。
大山:今回は「インターネット上の書き込みへの対応策」についてお話したいと思います。
―なぜ今回はこのテーマにしたのですか。
大山:今やブログやSNSで誰でも簡単に,全世界に向けて自分の言いたいことを発信できる時代となっていますね。それだけ,ネット上で自分のプライバシーが暴露されたり,中傷されたりする危険性も高まっています。
少し前までは,ネットへの書き込みは削除することもできないし,無視するしかないと言われていたこともあったのですが,実際は適切な手段をとればネットへの書き込みを削除することも可能なのです。
そこで,インターネット上で自分のプライバシーに関する書き込みをされたり,中傷された場合の対応策についてきちんと皆様に知ってもらおう,ということで今回このテーマとなりました。
第1 インターネット上の書き込み
―なるほど。プライバシーに関する書き込みや,中傷するような書き込みとは具体的にはどのようなものがありますか。
大山:例えば,プライバシーに関する書き込みとしては,ある人物の氏名と一緒に,その住所や電話番号を掲載する,という場合がこれにあたりますね。中傷するような書き込みの例としては,具体的な人物名を出して「こいつは横領野郎で会社をクビになったんだ。」などという書き込みがこれにあたりますね。
―今の「横領野郎」という書き込みなんですけども,例えば横領したことが真実であった場合でも,中傷された人は書き込みをした人に何らかの責任を問えるのですか。
大山:はい。人の社会的評価が下がるような書き込みをした場合,例えそれが真実であったとしても「名誉棄損」となる場合があります。「名誉棄損」となれば,中傷された人は,民事上では「不法行為」として,書き込みをした人に損害賠償を請求できる可能性がありますし,刑事事件として捜査機関に告訴をすることもできます。
―真実であれば何を書いてもいい,という訳ではないし,逆に,中傷された側としても,真実であるからと言って泣き寝入りする必要はないのですね。
大山:そうなりますね。
―先ほど大山さんも言っていましたが,仮にインターネット上で中傷されたとしても,無視するという方法も無い訳ではないですよね。
大山:確かにそうですね。
別にインターネット上で何を言われようが構わない,と考えて無視をするというのも一つの対策です。もっとも,無視をしていても,自分の知らないうちにどんどん被害が拡大してしまうことがありますね。
―具体的にはどういうことでしょうか。
大山:例えば,会社によっては,新規の取引先候補が現れた場合,取引の担当者の氏名をネットでまず検索する,ということもあるようなんです。その時に,担当者についての中傷記事を見られてしまうと,その真実はさておき,相手方の会社からみれば,そういうネガティブな噂のある人物であると受け取られる可能性があります。そうすると,取引に悪影響が生じることも考えられます。
また,企業への採用の際に,採用担当者が採用候補者の名前をインターネット上で検索して,悪い噂のある人物ではないか確認したりする,ということもあるみたいですね。
―なるほど。お仕事をされていない方に関してはどうでしょうか。
大山:会社勤めをしていない方や学生の方であっても,例えば興味半分で彼氏・彼女の名前をインターネット上で検索してみる,なんてこともあり得ますよね。
第2 インターネット上の書き込みへの対応策
―なるほど。ただ無視をしていても,自分が知らないうちに不利益を受ける可能性がある,ということですね。では,ネット上で自分のプライバシーに関する書き込みや,自分を中傷する書き込みを見つけた場合,どのような方法を取ることができるのでしょうか。
大山:まず,サイトの管理者などに対して,問題ある書き込みの削除を求めることが考えられます。また,発信者情報開示請求といって,書き込みをした人物に関する情報の開示を求めて,その人物を特定した上で損害賠償を請求したり,警察に告訴したりすることが考えられます。
―書き込みをした人物の特定までできるのですね。それは警察が犯罪の捜査をする場合に限ってできる,ということではないんですね。
大山:そうなんです。「プロバイダ責任制限法」という法律があって,その中に「発信者情報開示請求」という規程があります。この請求をすることで,全てではないのですが,書き込みをした人物の特定することが可能な場合があるんですね。
第3 削除依頼
―それでは,具体的にはどのようにして削除依頼や書き込みをした人物の特定をしていくことになるのでしょうか。まずは削除依頼について説明してもらえますか。
大山:問題の書き込みがなされているサイト内に,削除依頼を受け付ける専用のフォームが用意されている場合があるので,そこから削除したい部分やその理由について説明して削除依頼をする,ということが考えられます。
他には,「テレコムサービス協会」と言って,インターネットサービスプロバイダなどの幅広い事業者を会員としている法人があるんですね。この法人は,先ほど話したプロバイダ責任制限法のガイドラインを作成したりしているのですが,ここが削除依頼をするための書式を公開しています。これに記入をしてサイト管理者などに郵送する,という方法もあります。
―「テレコムサービス協会」ですか…。そんな協会があったんですね。
大山:なかなかそこまでご存知の方はいらっしゃらないと思いますね。
―他に何か書き込みを削除するための方法はありますか。
大山:先ほどお話した,サイト内の専用フォームからの削除依頼や,削除依頼書を送付したとしても,サイトが削除に応じてくれない場合があります。そのような場合には,裁判をすることによって削除を求めていくことになります。
第4 発信者情報開示請求
―なるほど。では,発信者情報開示請求についてはどうでしょうか。
大山:開示請求をするにあたって,まずは証拠を残しておくことが必要になります。問題の書き込みそれ自体だけではなく,それに関係するなと思う書き込みについても,スクリーンショットを撮ったり,紙に印刷しておく,という方法で証拠として残しておきます。
また,御存知の方もいるとは思いますが,「PDF」というファイル形式で保存しておくと,後にコピーアンドペーストができて便利です。このとき,いずれの方法による場合であっても,サイトのURLが最後まで明確に分かる形で保存しておくことが大切です。
―証拠の保存をしてそのあと,どのような流れになりますか。
大山:書き込みをした人物が使ったIPアドレスの開示請求をして,IPアドレスが分かったら,それを元にプロバイダに対して契約者情報の開示を請求する,という流れになります。
―2回も請求する必要があるんですね。IPアドレスだけ分かっても駄目だということなのでしょうか。
大山:そうなんです。
IPアドレスというのは,数字を羅列したものなのですが,あくまでも書き込みをした人物が契約するインターネットプロバイダがどこなのか,が分かるだけなのです。なので,まずはIPアドレスの開示を受けて,どのプロバイダなのかを調べる必要があります。そして,改めてプロバイダに対して,書き込みを行った人物についての契約者情報開示を求めて行くことになります。
―そうなんですね。具体的な請求の方法はどのようになりますか。
大山:IPアドレスの開示請求,契約者情報開示請求のいずれも,先ほどお話した「テレコムサービス協会」の専用の書式があるので,これに記入をして郵送する方法がありますし,これによって開示を受けられない場合には裁判で請求することになります。
―最後に,削除依頼や発信者情報開示請求について,何か気を付けることはありますか。
大山:今回は時間の関係もあって,書き込みに対する対応策の概要のみをお話しました。削除依頼にしても,発信者情報開示にしても,手続を進める上で注意をしなければならないポイントは結構あったりするんですね。最近では手続のやり方や注意点について分かりやすく説明をした書籍もあるので,インターネット上の書き込みで悩んでいる方がいらっしゃれば,実際手に取って読んでみるのがいいかと思います。また,ゆくゆくは裁判をする可能性もあるので,弁護士に相談することを考えてもいいかもしれませんね。
いずれにせよ,プロバイダの通信記録については3カ月で消去されてしまうことがあるので,問題のある書き込みを見つけて,削除依頼のみではなく,発信者情報開示を求めたい場合には,素早く対応しなければならないですね。
―ありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士大山洵(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士大山洵(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年6月13日