声明・意見書

労働時間規制の緩和に反対する会長声明

  1.  2014年6月24日に「日本再興戦略」改訂2014(以下「改訂戦略」という。)が閣議決定された。改訂戦略においては,(1)時間ではなく成果で評価される制度への改革として,一定の年収要件のもと,職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を現在の時間外割増手当の適用除外とする,「新たな労働時間制度」を創設すること,(2)労働者の働き過ぎ防止のための取り組み強化として,労働基準監督署の体制強化や長時間労働抑制策等の検討を労働政策審議会で行うことなどが示され,一定の手当のもとで現行の労働時間規制を緩和することが提案されている。
  2.  わが国では長時間労働による過労死等の問題が叫ばれて久しく,長時間労働抑制を図ることは,労働者の生命と健康を守る上で必要不可欠である。
    そして,現行の労働時間規制は,時間外労働について,労使協定で上限を定め,使用者に割増賃金の支払を義務付けることで,長時間労働を抑制し,労働者の生命や健康の保護を図ってきた。
    しかし,現行法制下でも,長時間労働やサービス残業の問題は後を絶たず労働時間規制が遵守されているとは言えない。また,法律上労働時間を適正に管理・把握すべきことが義務化されておらず,現行労働時間規制を機能させるための法制度も十分整備されているとは言いがたい現状にある。 加えて,現行の労働時間規制の適用除外とされている管理監督者や労働時間規制を一定範囲で緩和している裁量労働制についても,現実には適用要件該当性が認められない労働者にまで適用されており,労働時間規制の潜脱的な運用が見過ごされているという状況もある。
  3.  改訂戦略が提案するように,「新たな労働時間制度」として割増賃金適用除外制度を創設して労働時間規制を緩和することは,適用対象者が限定されているとはいえ,現状における長時間労働抑制の歯止めを外し,その結果,労働者の生命と健康を一層脅かすこととなりかねない。この点,確かに,改訂戦略でも,労働基準監督署の体制強化や長時間労働抑制策等の検討を通じて長時間労働の解消に努めることとされているが,実効性のある具体的な制度提案には至っていない。
  4.  よって,当会は,「新たな労働時間制度」を創設することには強く反対するとともに,現行労働時間規制を実効的に機能させるための新たな法制度と長時間労働解消のための具体的な制度の早急な策定を求めるものである。

2014(平成26)年8月20日
札幌弁護士会
会長  田村 智幸

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