声明・意見書

特定商取引法の改正により、事前拒否者に対する勧誘禁止の制度を導入することを求める意見書

2015(平成27)年8月5日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
衆議院議長 大島 理森 殿
参議院議長 山崎 正昭 殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)山口 俊一 殿
消費者庁長官 板東 久美子 殿
経済産業大臣 宮沢 洋一 殿
消費者委員会委員長 河上 正二 殿

札幌弁護士会
会長 太田 賢二

第1 意見の趣旨

  1.  現行の特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)では、訪問販売及び電話勧誘販売において、契約を締結しない意思を表明した消費者に対する勧誘を禁止しているが(継続的勧誘・再勧誘の禁止)、そもそも消費者の要請に基づかない勧誘(不招請勧誘)は、それ自体が消費者にとって迷惑なものであるばかりか、不当な契約や不本意な契約に繋がりやすく、悪質商法の温床ともなっている。
    そこで、特定商取引法を改正して、消費者が予め勧誘を拒否する意思を表明する制度を導入し、この意思表明に反する勧誘を法的に禁止することを強く求める。
  2.  訪問販売における具体的な制度設計としては、勧誘を望まぬ消費者が門戸等に「訪問販売お断り」を意味するステッカーを掲示していれば、それをもって勧誘を拒否する意思表明と認めて事業者の勧誘を禁止する、ステッカー方式による「Do-Not-Knock制度」の採用を求める。
  3.  電話勧誘販売における具体的な制度設計としては、勧誘を望まぬ消費者が予め電話番号を登録できる制度を創設し、事業者はその登録番号に架電して勧誘してはならないとする「Do-Not-Call制度」の採用を求める。
    また、その際の登録確認は、事業者の保有する電話番号リストから事前拒否者の登録番号をチェックする「リスト洗浄方式」を採用すべきである。
    そして、本制度の有効かつ適切な運用を確保するため、消費者の登録は無償とし、事業者が登録確認のために利用する際には相応の費用を負担させるべきである。

第2 意見の理由

  1.  現行の特定商取引法では、消費者が、訪問販売業者や電話勧誘販売業者から勧誘を受けた際、その契約を締結しない旨の意思を表明した場合には、さらに勧誘を継続したり、再度勧誘することを禁止している(特定商取引法第3条の2第2項、第17条)。
    しかし、消費者庁の解釈によれば、「訪問販売お断り」等のステッカーを門戸に掲示して事前に包括的な勧誘拒絶の意思を表明しても、それだけでは当該条文に規定する、契約を締結しない意思の表明とはみなされず、消費者は、突然来訪してくる訪問販売業者や突然架かってくる電話勧誘販売業者にいったん対応せざるを得ず、その上で、それぞれの業者に対し個別に拒否の意思を表明しなければならないとされている。
    しかし、消費者にとっては、そのような不意打ち的な勧誘に晒されること自体が私生活の平穏を害され、はなはだ迷惑なものであることは明らかである。そして、突然の訪問や電話による勧誘を受けた消費者が、契約を獲得せんとする事業者の巧みな勧誘に対し、直接、拒否の意思を表明することは必ずしも容易ではない。消費者が拒否の意思を表明できないまま継続的な勧誘・再勧誘に晒され続けることにより、事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(消費者基本法第1条、消費者契約法第1条参照)も相まって、不当な契約や不本意な契約を締結させられる被害にも繋がり易い。
    したがって、消費者の要請に基づかない勧誘(不招請勧誘)については、消費者の生活の平穏を害さないよう、また、不当な契約や不本意な契約に繋がらないよう、一定の制限を設けるべきである。
  2.  国民生活センターに寄せられた2014年度の全国の消費者相談の構成比を見ると、70歳以上の人が契約当事者である相談の割合は、店舗販売が約15%、通信販売が約11%であるのに比べ、訪問販売では約38%、電話勧誘販売では約44%に及んでおり、自宅にいることの多い高齢者が訪問販売や電話勧誘販売の対象になりやすいことが明らかとなっている。
    北海道消費生活センターに寄せられた2014年度の消費生活相談においても、訪問販売では70歳以上の相談が最も多く、50~70歳代以上の相談件数が全体の約61%を占めている。また、電話勧誘販売でも70歳以上の相談件数が最も多く、60~70歳代以上の相談件数が全体の約50%を占めている。
    高齢化社会の進展に伴い、今後、独居あるいは夫婦のみの高齢者世帯が益々増加することが見込まれるところ、判断能力の低下した高齢者が、不意打ち的な勧誘に対し拒否の意思を明確に表明し得ず、継続勧誘・再勧誘によって不当な契約や不本意な契約の締結に至る被害の増大も懸念される。
    現行法下における消費者被害相談の実態に鑑みるに、高齢者や、高齢でなくとも明確かつ直接に拒絶の意思を表明し得ない消費者に対する訪問販売や電話勧誘販売において、その被害を防止する法規制として現行法の規制(継続的勧誘の禁止や再勧誘の禁止)が不十分であることは、既に明らかとなっている。
  3.  そもそも、消費者が事業者と取引するかしないか、取引の前提として勧誘を受けるか否かは、消費者の自己決定権として尊重されるべきものである(「消費者基本計画」2015年3月24日閣議決定参照)。
    また、消費者庁が平成27年5月に行った「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘による意識調査」によれば、消費者の約96%が、訪問勧誘・電話勧誘を全く受けたくないと回答しており、そうした状況を踏まえれば、本来は、訪問及び電話による勧誘を原則禁止とすべきであって、予め消費者が要請・許容した場合にのみ行うことができるようすることが望ましい(オプト・イン方式)。
    とはいえ、事業者の営業活動にも一定の配慮をするとすれば、現時点においては、予め、訪問及び電話による勧誘を拒絶する意思を表明した消費者に対する勧誘を禁止する制度(オプト・アウト方式)を早急に導入することで消費者の生活の平穏と被害防止を図るべきである。
  4.  本制度の導入を求める意見に対しては、事業者の中に、オプト・アウト方式であっても従前の営業活動に比較すれば一定の制約を受けることから、営業の自由に対する過剰な規制であるとして反対する意見もある。
    しかし、事業者にとっての営業の自由は、消費者が嫌がる営業活動を正当化するものではあり得ない。現行法においても、勧誘を拒否する意思を表明した者に対する継続勧誘・再勧誘は禁止されているところ、本制度は、その意思を事前かつ明確に表明できるよう制度化するものにすぎない。たとえ消費者から拒否の意思が表明されていても、チラシ・広告等の投函や郵送等は可能であるから、消費者の要請や同意を得て訪問・架電すれば足りる。
    また、現行法の通信販売・連鎖販売取引・業務提供誘引販売における規制では、電子メール広告の送信について、事前の同意がある場合にのみ送信できる(特定商取引法第12条の3、同第36条の3、同第54条の3)としてオプト・イン方式を採用しているところ、これらと比較するに、訪問販売及び電話勧誘販売の勧誘にオプト・アウト方式を採用することが過剰な規制といえるはずもない。
    そもそも、予め勧誘を拒否する意思を表明する消費者は、適切な営業活動をする限りは契約締結の見込みが著しく低いというほかなく、事業者としても、そのような消費者を勧誘対象から除外することで効率的な営業活動が可能となる。
    そして、消費者の勧誘を拒否する意思を尊重せず、巧妙かつ執拗な勧誘によって強引に契約を獲得し、消費生活センターへの苦情に繋がるような問題のある事業者らに規制を加えることは、適切な営業活動を励行しようとする訪問販売業界・電話勧誘販売業界全体の利益にも繋がるものである。
  5.  現に、「訪問販売お断り」のステッカーを門戸等に掲示したり公的な登録簿を活用したDo-Not-Knock制度は、オーストラリア、イギリス、ルクセンブルク、アメリカ国内の多くの地方自治体等において採用されており、電話勧誘の事前拒否登録によるDo-Not-Call制度は、EU加盟各国でそれぞれ制度化が進められているほか、アメリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル(州レベル)、オーストラリア、インド、シンガポール、韓国等多くの国々で既に導入されている。
    また、条例においては、既に北海道消費生活条例や全国各地の複数の地方自治体において、「訪問販売お断り」のステッカーを門戸等に掲示した消費者に対する勧誘を禁止している。
  6.  本制度の具体的な設計としては、訪問販売におけるDo-Not-Knock制度を導入する場合、登録簿を作成する方式では各戸についての情報を収集・修正・管理することが煩雑であり現実的な運用が困難である一方、北海道や全国各地の複数の地方自治体が既に「訪問販売お断り」のステッカーを配布していることから、ステッカー方式を採用すべきである。
    一方、電話勧誘販売におけるDo-Not-Call制度では、電話番号という明確かつ単一の情報を管理することで足りるため、登録簿を作成する方式が適している。
    そして、事業者が勧誘の事前拒否者について登録の有無を確認する方法としては、既に導入済みである諸外国の例を見るに、拒否者の登録情報を事業者に開示する方法(勧誘拒絶リスト提供方式)と、事業者の有する情報から拒否者の情報をチェックする方法(リスト洗浄方式)との2種類に大別されるところ、登録者の情報が広く流出して悪用されるリスクを最小限に抑えるためには、リスト洗浄方式を採用すべきである。
    また、本制度を導入・運用するには相応の費用を要するが、有効活用のためには消費者の登録を無償とすべきであり、実際にもDo-Not-Call制度を既に導入している諸外国において消費者の登録を有償とする例はない。一方、事業者は営業活動の一環として勧誘を行うのであり、本制度によって契約可能性の著しく低い消費者を勧誘対象から除外し効率的な営業活動を可能とすることなどに鑑み、事業者による事前拒否者の登録確認には適切な手数料を負担させるべきである。
  7.  以上の理由により、意見の趣旨で述べたとおり、訪問販売及び電話勧誘販売について事前拒否者に対する勧誘禁止の制度を求めるものであるが、いかに法改正によって本制度を導入しても、事業者によって遵守されなければ意味がない。
    そこで、事業者の違反行為には、他の禁止条項と同様に行政処分及び罰則をもって対処すべきであるほか、違反行為を効果的に抑止し、その違法な利得を事業者に残さないためには、契約の取消権や解除権を消費者に付与することも検討すべきである。

以上

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