声明・意見書

最低賃金の大幅な引き上げ等を求める会長声明

  1.  ここ数年、最低賃金は一定の引き上げがなされています。
     しかし、我が国の相対的貧困率(全世帯の可処分所得を1人当たりに換算して低い順に並べ、中央の額の半分に満たない人の割合)は依然として15.6%という高い水準で推移し、昨今では「子どもの貧困」がクローズアップされる等、貧困と経済的格差は、我が国の重大な社会問題です。
  2.  当会は、2017年(平成29年)7月1日、「最低賃金の大幅引き上げと審理の公開推進を求める会長声明」を発しました。また、同年12月から2018年(平成30年)3月にかけて、最低賃金に関して、北海道地方最低賃金審議会の実情、近年の最低賃金の引き上げに伴う影響や課題等について関係諸団体からの聴き取り調査を実施し、さらに2018年(平成30年)3月24日には、シンポジウム「北の大地からも最低賃金の引き上げと市民の生活の底上げを!」を開催し、最低賃金のさらなる引き上げが必要であること及びそのための課題並びに最低賃金審議会の審理を公開することの必要性を示してきました。
     これらの調査及びシンポジウムの成果を踏まえ、当会は、最低賃金について次のとおり訴えます。
  3.  我が国では、多くの労働者が最低賃金周辺の賃金で稼働しており、最低賃金の低さは貧困や経済的格差を招来する直接的要因となっています。貧困や経済的格差の解消のためには、最低賃金の迅速かつ大幅な引き上げが必要不可欠です。
     近年の最低賃金の引き上げも、我が国に存在する貧困と経済的格差の解消のためには十分な引き上げとはいえません。
     すなわち、2010年(平成22年)6月18日に閣議決定された「新成長戦略」は、2020年までに最低賃金(時間額)を全国平均「1000円」にするという目標を掲げていますが、そもそも、時間額1000円という金額は、週40時間働いても、各種控除前の名目給与金額で年収200万円程度にしかならず、単身者にとってすら十分な額ではありません。また近年は、「子どもの貧困」が注目されていますが、子どもを育てていくためには、この程度の金額では足りないことは明らかです。
     むしろ、貧困と経済的格差が蔓延している我が国の現状や「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」(最低賃金法1条)といった最低賃金法の趣旨、日本国憲法25条の生存権の理念等に照らすならば、時間額1000円の早期実現のみならず、最低賃金をさらに大幅に引き上げることは、政府、中央最低賃金審議会、各地方最低賃金審議会及び各都道府県労働局長の法的責務というべきです。
  4.  もとより、最低賃金のさらなる大幅な引き上げに際しては、実際に労働者に賃金を支払う企業、とりわけ最低賃金の引き上げにより大きな影響を受ける中小零細企業への実効的な支援等も欠かせないものというべきです。具体的には、そのような中小零細企業に対する社会保険料や税金の減免措置等が検討されるべきです。
  5.  また、近年の最低賃金の引き上げに伴い、最低賃金の地域間格差が拡大していることも問題です。最低賃金額は、賃金水準全体にも影響を及ぼすため、地方では、賃金がより高い首都圏等での就労を求めて地元を離れてしまう現象も見られ、人口減少や労働力不足が深刻化しています。過疎の防止や地域経済の活性化のためにも、最低賃金の地域間格差の縮小は喫緊の課題といえます。
  6.  さらに、北海道地方最低賃金審議会において最低賃金額の実質的な議論を行う北海道最低賃金専門部会等は例年非公開となっており、一部の委員間でなされる非公式の協議・打合せについては議事録すら残らず、審理の実質的な内容や経過を検証することが困難となっています。
     審理の適正を担保するために審議の内容・経過は公開が要請される一方、審理の公開による不都合はありません。そこで、中央最低賃金審議会及び北海道地方最低賃金審議会においても、審理を全面的に公開すべきです。
  7.  以上より、当会は、政府、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対し、最低賃金の地域間格差を解消しつつ、中小零細企業への実効的な支援とともに、最低賃金について、可及的速やかに時間額1000円以上とすること及び時間額1000円を超えるさらなる大幅な引き上げを行うことを求めます。また、審理の適正を担保するため、最低賃金審議会の審理を全面的に公開することを求めます。

2018年(平成30年)6月29日
札幌弁護士会
会長 八木 宏樹

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