声明・意見書

日本司法支援センターの代理援助契約書等に関する意見書

日本司法支援センター
 理事長 板東 久美子 殿

第1 意見の趣旨

  1. 日本司法支援センターから被援助者に交付する書面のうち、代理援助契約書及び重要事項説明書について、るびありの書面を作成されたい。
  2. 契約弁護士ないし契約司法書士が前項のるびありの書面の交付を求めた場合、るびありの書面を交付されたい。
  3. 日本司法支援センターから契約弁護士及び契約司法書士に対し、るびありの書面が存すること及び交付を求めた場合にはるびありの書面を交付することを周知されたい。

第2 意見の理由

  1. るびありの書面の必要性
    (1) るびありの書面が実際に必要であること
    ア  日本司法支援センター(以下、「法テラス」という。)の代理援助を受ける被援助者の能力は多様であり、なかには漢字の読み書きが不可能もしくは不完全である者も多数存在する。
     漢字の読み書きが不可能もしくは不完全である者が、法テラスの代理援助を受けて、代理援助契約を締結する場合、法テラスの交付する代理援助契約書及び重要事項説明書には、多数の漢字が使用されており、かつ、るびが付されていないため、漢字の読み書きが不可能もしくは不完全である者が、代理援助契約書等の意味内容を直ちに理解することはできない。
     契約弁護士及び契約司法書士(以下、「契約弁護士等」という。)は、被援助者に対して、代理援助契約書及び重要事項説明書の内容を説明することにより、漢字の読み書きが不可能もしくは不完全である者にとっても、その意味内容を一時的には認知することはできる。
     しかし、代理援助契約書及び重要事項説明書の内容を永続的に記憶していることは誰しもが不可能であることから、代理援助契約締結後から事件終結に至るまでの間に、代理援助契約書及び重要事項説明書を確認することが必要となる場面が生じることは多数存する。漢字の読み書きが不可能もしくは不完全である者が代理援助契約書及び重要事項説明書を確認しようとした場合に、るびが付されていなければ、同書面の内容を認識することができないという事態が生じることとなる。これでは、契約内容を確認するという契約書の重要な機能を果たすことはできないし、被援助者の大きな不利益になることは明白である。
    イ  当会会員が、軽度精神遅滞の診断を受けている者から破産手続開始申立事件の依頼を受けて、法テラス札幌地方事務所に対して代理援助の申込をし、同事務所から交付を受けた代理援助契約書及び重要事項説明書を見せて説明をしたところ、同人は「漢字を読むことができない。」とのことであった。当会会員が漢字を読み上げることにより契約内容を説明し、被援助者は納得して契約締結に至ったものの、契約後に代理援助契約書及び重要事項説明書の内容を確認しようとしても、漢字を読むことができないため、その内容を確認することはできない。
     当会会員は、令和元年9月24日、法テラス札幌地方事務所に対し、フリガナを付した代理援助契約書及び重要事項説明書の交付が可能かを問い合わせたところ、同事務所に備え付けがなく、個別対応は困難である旨の回答を得た。
    ウ 以上より、るびを付した代理援助契約書及び重要事項説明書が必要であることは疑う余地もない。
    (2) 法律に基づく要請があること
    ア  障害者基本法は、全ての国民が障害の有無にかかわらず等しく基本的人権を享有する個人として尊重されるものであるとの理念に則り、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指しており(第1条)、その実現のため、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること(第3条第1号)、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること(第3条第3号)を求めている。
    イ  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「障害者差別解消法」という。)は、法テラスを含む独立行政法人等(第2条第5号ロ)を含む行政機関等(第2条第3号)に対し、「その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」ことを求めている(第7条第2項)。
    (ア) 当会会員は、法テラスに対して、フリガナを付した契約書等を交付することを求めており、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明はなされている」(第7条第2項)。
    (イ) フリガナを付した契約書等を作成することは、単に契約書にフリガナを付ける作業を要するに過ぎないうえ、新たな予算措置が必要となるものではないことから、「その実施に伴う負担が過重でない」(第7条第2項)。
    (ウ) 契約内容を理解することができないという「障害者の権利利益」(第7条第2項)の「侵害」(第7条第2項)とならないようにするためには、障害者に契約内容を理解できる状況を作出しなければならない。
    (エ) 障害者に契約内容を理解できる状況を作出するためには、契約書等にフリガナを付することが「必要かつ合理的な配慮」(第7条第2項)といえるものである。
    (オ) 以上より、障害者差別解消法第7条第2項に基づき、法テラスには、代理援助契約書等にフリガナを付したものを作成する法的義務がある。
    ウ  なお、障害者差別解消法第9条第1項は、行政機関等に対し、同法第7条に規定する事項に関し、適切に対応するために必要な要領を定めることを求めている。
     同法第9条第1項に基づき、行政機関は、内閣府ホームページにおいて、各行政機関の対応要領を公開しているところ、同対応要領は全て「るびなし」と「るびあり」の双方が掲載されている。漢字を読むことができない障害者等に、同法第7条第2項に定める「必要かつ合理的な配慮」をし、「るびあり」の対応要領が作成されたものである。
     また、内閣府作成の障害者差別解消法リーフレットにおいても、全ての漢字にるびが付せられている。
     さらには、内閣府障害者施策担当作成の平成29年11月付けの「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」の1-(5)-1において、「役所が公表した調査報告書を読みたいのだが、平仮名しか読むことができないので、振り仮名を付けてほしい。」という要望に対しては、「ページ数の多い調査報告書であり、全ての文章に振り仮名を付すことは作業量が膨大となるので、要点を抜粋した概要ペーパーを作成して振り仮名を付すこととした。」という対応が合理的配慮である旨記載されている。この記載からすれば、漢字にフリガナを付すことは合理的配慮としてすべきであるが、その作業量が過重となるために要点を抜粋した概要ペーパーを作成してフリガナを付すという対応をしたものである。
     以上の各対応に鑑みれば、漢字を読めない者のために、フリガナを付することは、障害者差別解消法の求める合理的配慮であることは明らかである。
    (3) 法テラスの規程からも要請されること
     法テラスは、平成27年11月30日付けにて、障害者差別解消法第9条第1項の規定に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する規程」を定めている。
     同規程第4条第1項では、「職員は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状況に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)の提供をしなければならない。」と規定し、職員に対し、合理的配慮を求めている。
     そして、同規程第4条第2項を受けて、合理的配慮に架する留意事項を別紙で定めている。別紙第7において、合理的配慮の具体例として、「筆談、読み上げ、手話、点字、拡大文字、身振りサイン等による合図などのコミュニケーション手段を用いる」、「会議資料等について、点字、拡大文字等で作成する際に、各々の媒体間で頁番号等が異なることに配慮して使用する」「意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認する」と記載されている。これらの記載からすれば、意思疎通の手段が限定的な者に対しては、意思疎通が図られるような手段を講じることを求めていることは明らかである。
     同様にして、平仮名しか読めず、漢字を読むことができない者に対しても、平仮名という手段を使うことによって意思疎通を図ることができるようにすることは、法テラスの同規程から求められていることは明らかである。
  2. 代理援助契約書及び重要事項説明書にるびを付けることの相当性
     るびを付けることを求めている書面は、代理援助契約書及び重要事項説明書である。代理援助契約書は1枚(表裏印字)、重要事項説明書も1枚であることから、るびを付ける漢字の文字数も膨大な量というわけではない。また、代理援助契約書及び重要事項説明書は全く同一の文言であることからすれば、1回るびを付けた契約書を作成さえすれば、それを複製して何度も使用することができるのである。したがって、代理援助契約書及び重要事項説明書にるびを付けることは過重な負担となるものではない。
     なお、将来的には、代理援助契約書及び重要事項説明書のみではなく、被援助者に交付する書面の全てについて、るびを付した書面を交付すべきであるが、現時点においては、その負担等にも考慮し、求めることはしない。
  3. 周知等について
     代理援助契約書及び重要事項説明書にるびを付した書面を作成した場合、漢字を読むことができる者に同書面を交付しても特段の意味はない。漢字を読むことができない者に対して交付すれば足りるものであることから、契約弁護士等が同書面を求めた場合にのみ、同書面を交付することで足りるものと思料する。
     ただし、契約弁護士等において、るびを付した代理援助契約書及び重要事項説明書の存在を知らなければ、同書面を求めることができない。そこで、法テラスは、るびを付した代理援助契約書及び重要事項説明書を作成後、同書面が存在すること及び同書面を求められ場合には交付することを契約弁護士等に周知すべきである。
  4. 結語
     以上より、当会は、法テラスに対し、障害者差別解消法に基づき、①代理援助契約書及び重要事項説明書にるび付きのものを作成すること、②同書面の交付を契約弁護士等が求めた場合には交付すること、③同書面が存すること及び契約弁護士等が求めた場合に交付することを周知することを求める次第である。

以上

令和元年11月1日
札幌弁護士会
会長 樋川 恒一

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