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2012/09/28

北海道弁護士会連合会定期大会 記念シンポジウム 再生可能エネルギー基地 北海道 基調報告

弁護士 髙杉 眞

公害対策・環境保全委員会

第1 はじめに

弁護士の高杉眞と申します。北大の法科大学院生のとき環境法に興味を持ったことがきっかけで,弁護士登録以来,札幌弁護士会の公害対策環境保全委員会に参加しています。今回,基調報告を担当させていただきますので,よろしくお願いいたします。

さて,先ほど上田文雄札幌市長のビデオレターで,札幌市の,省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの利用促進による脱原子力の取り組みについてご紹介がありました。政府も,昨年,福島原子力発電所の事故で原子力の安全性に対する国民の信頼が大きく損なわれたことを認め,電力エネルギー政策において中長期的に原子力発電への依存度を可能な限り引き下げていくという方向性を示し,省エネルギーの徹底的な推進と再生可能エネルギーの開発・普及の強力な推進が重要であるとも表明しています。

原子力をめぐる諸問題で分かるように,エネルギー政策は市民の人権や暮らしに大きなインパクトを与えます。人権や暮らしを見据え,議論を整理したり,法的・制度的な問題点を洗い出してお示しすることで,私たち法律家も,この問題に積極的に関わっていきたいと考えております。

ところで,再生可能エネルギーの開発と普及においては,気象条件や人口密度などさまざまな理由から,北海道に大きな可能性があると言われています。そこで,北海道弁護士会連合会の公害環境委員会では,各委員が道内・道外で,再生可能エネルギーの政策に関与している人物や団体に話をうかがい,実際の施設を見て回ってくることにしました。私自身,5月下旬に,他の弁護士会の弁護士と合同で,スペイン・ドイツを視察して参りました。

視察や聞き取りの結果は,私ども公害環境委員会の委員が手分けして報告書にまとめました。会場の皆様には報告書を資料としてお配りしましたので,ご活用いただければ幸いです。

今回の基調報告では,スペイン,ドイツで私たちが見てきたこと,感じたことを交えながら,再生可能エネルギーのさまざまな実例についてご報告申し上げようと思います。基調報告に続いて,専門家の皆さんによるパネルディスカッションを企画しておりますので,これから報告させていただく内容が,パネルディスカッションに対するご理解を深める一助になればと願っております。

第2 大規模な太陽光発電と風力発電

大規模な太陽光発電:NEDOが中心に建設した稚内の施設(現在は市有)

さて,再生可能エネルギーを定義しますと,太陽光・太陽熱,風力,水力・地熱,農作物の残さや家畜の排せつ物,森林からでる残材,食品廃棄物などの生物資源(バイオマス)など,自然界で繰り返し起こる現象から取り出せて,枯渇せず,持続的に利用できるエネルギー源のことです。これらを一般に再生可能エネルギーと呼んでいます。

北海道でも再生可能エネルギーによる発電は始まっています。たとえば,写真の,稚内メガソーラー発電所です。

ここは,新エネルギー産業技術総合開発機構,略称NEDOという,国の研究機関が中心となって,平成18年から平成23年にかけて整備した太陽光発電所です。設備容量は,約5メガワット,現在は取扱職員の電気主任技術者資格の兼ね合いで,もう少し出力を落として運転されています。

稚内メガソーラー発電所

稚内は,北海道の東部と比べて太陽の出ている時間が長いわけでなく,雪も積もりますので,太陽光発電にとって厳しい条件の場所です。それでも,太陽光発電には気温が低いほど効率が良いという特性もあり,発電の効率では全国平均に届いています。北海道には日照条件がもっと良い場所も多く,設置可能な場所もたくさんありますから,北海道において太陽光発電が有望なのは明らかだと思います。

この写真は,稚内メガソーラーの中の写真です。通路が白く見えるのは,ホタテの貝殻を砕いたものを撒いてあるからで,反射する光も拾おうという試みだそうです。

現在,このメガソーラー発電所は稚内市が所有しています。ここで作られる電気は,周辺の関連施設で使用するほか,北海道電力に売られています。売るときの単価は,北電との契約で,1キロワット時あたり12円で,これから始まる国の固定価格買取制度の42円よりもはるかに安いのですが,電気を売ることで平成23年度には約1500万円の黒字が出ています(平成23年度の売電収入が4247万1000円で,市では施設の維持管理委託料2688万円を払っても年間1559万1000円の黒字です)。

稚内メガソーラーのNAS電池

なお,稚内メガソーラー発電所には非常に高性能な電池が備わっており,発電した電気は全て一旦電池に貯め,必要に応じて瞬時に放電する仕組みになっています。好天が見込まれる日の前日には夜の間に電池が空になるまで売電したり,電力需要が多くなるタイミングを見計らって多めに売電したりするなど,弾力的な売電が可能になっています。

宗谷岬ウインドファーム

宗谷岬ウインドファーム 遠景

これは,稚内空港から宗谷岬を望んで写した写真です。矢印の下,地平線のところに小さな突起がたくさんありますが,おわかりでしょうか。その一つ一つが宗谷岬ウインドファームの風力発電装置です。

宗谷岬ウインドファームの風車 支柱高68m ローター直径61.4m 地面からブレード先端まで約100m 定格出力:約1基あたり1MW

こちらが,風車を近くから写した写真です。ご覧のような風車が,宗谷岬の丘陵地に57基,建ち並んでいます。宗谷岬ウインドファームは,ユーラスエナジーという豊田通商と東京電力の合弁会社が経営するグループ会社が運営しています。

風車一基の大きさは,支柱が高さ68メートル,ローターの半径が約30メートルですから,地面から風車のてっぺんまでで,約100メートルの大きさです。

発電の性能ですが,一基あたりの定格出力が1メガワットになっています。ただ,風が吹かなかったり,風が強すぎて風車が止まったりすると発電しませんので,風車がいつも1メガワットで発電し続けるわけではありません。一般に風力発電施設の利用率は,容量の20%程度止まりです。それでも,宗谷岬ウインドファームの年間発電量は,稚内市の全消費電力量の約6割から7割相当にまで達するほどの好成績です。電気は,北海道電力が購入しています。

ドイツ ダルデスハイムの風力発電

ウインドファーム(ドイツ・ダルデスハイム) 2MW30基,6MW1基の計66MW/h

私たちは,旧東ドイツ・ザクセンハルツ州のダルデスハイムという町を訪れました。ここの風車は31基,定格出力にして合計66メガワットという規模ですから,先ほどの宗谷岬ウインドファームより少し大きな規模の施設です。

ここ,ダルデスハイムの風力発電は,地元地域の利益を確保するための取り組みが進んでいるという点が特徴です。北海道の今後のエネルギー政策を考える上で,大いに参考になると思い,ご紹介いたします。

ダルデスハイムの風力発電も会社組織で運営されていますが,その事業には周辺地域の人々のみが共同出資できる形を取っているのが特徴です。ダルデスハイムにはもともと約250世帯しか住んでいないのですが,この風力発電には150もの世帯が出資しているそうです。風車で発電した電気は全量強制買取制度を利用して電力会社に売られ,出資者の住民には年8%の配当が保障され,さらなる発電があれば配当が上乗せになります。

また,回転部分のメンテナンスなど,風力発電設備の日常のサービスはエネルコン社という世界規模の大きな企業が行うのですが,そこに地元から従業員が8名雇われています。その8人の従業員の平均年齢が24歳ということで,電力強制買取制度のある20年間は8名の従業員とさらにその家族が地域で安心して子育てをすることが出来,過疎化阻止にも大きな効果がありました。

ドイツをはじめとする国々で,再生可能エネルギーの普及を可能にした一員に,固定価格買取制度というものがあります。これは,再生可能エネルギーで発電した電気を,長期にわたって一定の価格ですべて買い取ることを保証する制度で,日本でも,再生可能エネルギー特別措置法に基づいて,今月の1日から導入されています。

これにより,事業者には安定した収益が見込めるため,新規参入がしやすくなり,金融機関からも有志を受けやすいというメリットがあります。

また,これまでの日本のように,ひも付きの補助金によって採算を度外視して過剰な設備を設置するといった無駄も避けられるといわれています。

風力発電や太陽光発電の施設は,大規模な火力発電所や原子力発電所と比べると,ひとつひとつの施設の規模は小さく,しかも,広い地域に散らばって立地することになりますので,効率が高くはありません。それでも,固定価格買取制度のおかげで,収益可能の見通しが立ち,多くの新規参入が起こり,全体では,まとまった量の電気を調達することができるようになります。もちろん,固定価格買取といっても,その元となるお金は電気を使う私たちが電気料金に上乗せして負担するのですが,これから先の社会において化石エネルギー依存・原子力エネルギー依存がもたらすデメリットを考えれば,再生可能エネルギーへの転換のための費用は,受け入れられるべき負担ではないでしょうか。