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2012/09/28

北海道弁護士会連合会定期大会 記念シンポジウム 再生可能エネルギー基地 北海道 基調報告

弁護士 髙杉 眞

公害対策・環境保全委員会

スペインの再生可能エネルギー事情

マドリッドからバルセロナに向かうAVE(高速鉄道)車窓の風景

こちらは,マドリッドからバルセロナに向かう途中の高速鉄道の車窓で見かけた,風力発電施設です。スペインは,風がよく吹き,さらに,年間の日照時間にも恵まれていることから,風力エネルギーや太陽エネルギーの利用が進んでいる国のひとつです。

EU委員会では,1997年の再生可能エネルギー白書において「2012年までに総エネルギー消費量の12%を再生可能エネルギーで賄う」との目標を導入し,2004年には,「2010年には総発電の22.1%を再生可能電力で賄う」という提案をしていました。スペインも,その方針に従い,再生可能エネルギーの導入を進めてきました。

その結果,スペインでは2011年の国内総発電量の約32%が,水力・風力・太陽・バイオマス等の再生可能エネルギー由来のものでまかなわれました。

スペインではいまでも原子力発電が総電力の約2割弱を占めますが(スペインでは1980年代以降,新たな原子力発電施設の建設は凍結されたままです),原子力よりも再生可能エネルギーの電気が,発電量では大きく上回っているのです。

スペイン視察(マドリッド・バルセロナ)

スペイン視察・IDAE訪問

スペインでは,再生可能エネルギーをどのようにして広く導入してきたのかに着目して視察を行いました。訪問先には,再生可能エネルギーの研究開発普及を進めているIDAE・イダエ・「エネルギー多様化及び省エネルギー研究所」の事務所や,全国の送電施設を一括制御するRED・レッド社の施設等を選びました。

発電所と送電網

発電所と送電網

そもそも,電気はどのように作られ,送電されているのか,大雑把に説明しましょう。 こちらのスライドは,発電所と,需要者を相互に結んでいる送電網をイメージしています。 工場の絵が火力発電所,左下が原子力発電所,その隣が風力発電,その隣が太陽光発電,右側の家と建物が電気を使っている重要者を表しています。それらすべてが,送電線でつながっている状態を想像していただけますでしょうか。

大勢の人が,機械を一斉に動かしたり,エアコンを掛けたりなどして,電気の需要が増える時間帯には,各発電所でガス,重油,石炭を大量に燃やし,より多くの電気を供給します。夜など,需要が減るときにはいずれかの発電装置の運転を絞ったり休ませたりします。発電しないとき,発電機は,送電網を流れる電気によって空転させられている状態になります。送電網の全体を見れば,常に一定の品質の電気が流れている状態が保たれるように,発電所同士で運転する出力を調整しあっているのです。

スペインにおける送電網の一括制御

送電網の一括制御(RED社)

こちらは,レッド社の送電制御施設の写真です。原子力発電所・水力発電所を含むスペイン全土の発電所および送電網が,この場所から,一括して制御されています。

スペインの電力需要予測

スペインの国全体で必要となる電力量の予測は,それまでの実績に基づきコンピュータで瞬時に算出され公表されています。この図では,需要の予測曲線と,実際に発電・送電された量や,発電の種類が分かります。

これと同じデータが,さきほどの制御室の右側画面に表示されています。制御室では,需要予測に沿って,どこの発電所をどの程度運転して電気を確保するか判断しながら,全国の発電量と送電網を制御しています。

スペインでは,再生可能エネルギーの電力は電力会社が全て買い取ることになっています。そのため,風力や太陽熱由来の電気が,最優先で配電されます。

スペインでは2011年には風力発電による電気が総発電量の15.7%に達しています。風力発電は,風次第で発電量が大きく増減するため,天気や風の観測データに基づき,再生可能エネルギーで調達できる発電量を予測しておくことが非常に重要になります。

ここREDでは,風力発電で不足が生じるとき,ガスを燃料とする発電所を制御室からすぐに立ち上げる態勢を取っています。逆に,風力発電の電気が多いときには,ガスを燃やす発電所は休ませます。このようにして,送電網自体には,常に必要なだけの量の電気が流れる状態が保たれています。

また,スペイン全体で電力が余ったり,足りなくなったりしているときは,国境を越える連係線を利用して,隣国のポルトガルやフランスと電力を融通しあいます。視察に私たちが訪れた当時は,フランスに売電している状態でした。

もちろん,風力発電には,発電した電気が急に大量に送電網に流れ込み,電圧を急降下させて機器を故障させる等の事故が考えられないわけではありません。しかし,それらの問題は技術的に克服されており,再生可能エネルギー導入自体の妨げにはなりません。

実際,スペインは,今後とも再生可能エネルギーの割合を高めていく方針です。送電制御を統括する会社も,2020年時点で発電量の40%が再生可能エネルギー由来になることを想定したインフラを整備予定と表明していて,再生可能エネルギー由来の電気の供給が更に強化される見込みです。

それでは,北海道の状況はどうでしょうか。

道北の苫前,稚内,猿払のあたりは,全国的に見ても風が強く,人口密度も低いため,あらたな風力発電の設置には,非常に適している場所と目されています。しかし,我が国では,スペインのような電気の全量買取がすぐには実現しそうにありません。法律上,系統への負担など技術的な理由で,電力会社の判断により,買い取り量の抑制が可能な制度になっているのが現状です。そのため,これまでは,少ない買取枠をめぐって,参入希望者の多くが抽選でもれてしまい,新規参入や既存設備の拡大が阻害されてきました。

また,いざ再生可能エネルギーによる発電を開始できても,道北には,大きな電力需要が無いので,作った電気は地元で使い切れません。札幌や太平洋岸の地域に電気を送ろうにも,もともと需要が小さい地域に電気を届けるための送電線しか無く,送電網自体が貧弱です。 このことは,資源エネルギー庁が今年3月26日に公表した報告での数字で見ると明らかです。 道北日本海側及び道北オホーツク海現在の連系可能量はわずか200メガワット程度にすぎません(約20万キロワット)。宗谷岬ウインドファームや稚内メガソーラー,苫前のウインドファームなど既存の施設だけを足しても数十メガワットになりますから,現在の送電網がどれだけ貧弱であるか,ご理解いただけると思います。

また,この資源エネルギー庁の報告によれば,この地域において風力発電を最大限に活用するには,これから先,送電できる量を従来の200メガワットから,約3200メガワットまで増やす必要があるそうです。さらに,留萌地区まで含めれば約4000メガワットまで増やすことになります。それには,総額2900億円の費用がいるのですが,九州電力の玄海原子力発電所4号機の建設費用が3244億円と公表されていますので,これとほぼ同じ建設費用といえます。

原子力発電所1基分で,道北全体の再生可能エネルギーを最大限に活用できるのなら,送電網の整備はすぐにでも実現可能ではないでしょうか。

さらには,本州方面への送電線を強化して,再生可能エネルギーの導入を,日本全体に拡大していくことも,非常に重要だと思います。