執筆:平山 誠 弁護士
企業は労働者の生命・身体等の安全を図るために必要な配慮をする義務を負っています。例えば、労働者が怪我をしないよう、職場環境を安全に保つことは、安全配慮義務の一つの例です。
他類型の安全配慮義務の具体例として、企業は労働者の精神状態や労働状況に対しても配慮する義務を負います。
例えば、長時間労働に従事する労働者が身体もしくは精神に障害を生じた場合(さらには死に至った場合)には、企業が当該労働者の業務量を適切に配分するという安全配慮義務を怠ったと判断される可能性があります。長時間労働とは、1ヶ月で100時間以上の法定外労働をしたことや、2~6か月の平均労働時間で検討する場合には月80時間以上の法定外労働をしたこと等が一つの基準とされています。ただし、同基準は絶対的なものではないことに注意が必要です。
企業が労働者から、過重労働により精神状態を悪化させられた旨の安全配慮義務違反を指摘された場合に、企業は、「労働者がメンタルヘルスを害していることは把握していなかったから責任を負わない。」等と主張するケースが散見されます。しかし、労働者が1ヶ月で100時間の法定外労働をしているような過重労働の事案では、判例上、企業が「労働者の心身の健康を損なう危険」、つまり抽象的な健康状態への悪影響を把握していれば、予見可能性の観点から責任を免れることはできないとされる例が多いです。したがって、企業が「労働者がメンタルヘルスを害している」という具体的事情を知らなくとも、企業は責任を問われる可能性があります。
このように、企業にとっては、労働者が体調を崩してから事件を把握することから、企業の安全配慮義務違反の責任を問われた際には、対応に苦慮することが予想されます。そこで、企業は職場環境を定期的に整えることが、予期せぬ損害賠償請求を避けるために有用です。事件が発生してから弁護士に仕事を依頼されるのではなく、事件が起こらないようにするために法的な予防策を講ずることが重要といえます。
以上