声明・意見書

経済財政運営と改革の基本方針2014(社会保障改革部分)を受けて,生活保護の冬季加算の見直しが行われることに反対する会長声明

 政府は,平成26年6月24日,「経済財政運営と改革の基本方針2014」を閣議決定し(以下「骨太方針2014」という。),これに基づき,平成26年7月25日,「平成27年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針」(概算要求基準)を閣議了解した。
 骨太方針2014は,生活保護につき「住宅扶助や冬季加算等の各種扶助・加算措置の水準が当該地域の類似一般世帯との間で平衡を保つため,経済実勢を踏まえてきめ細かく検証し,その結果に基づき必要な適正化措置を平成 27 年度に講じる。」とした。
 その根拠となっている財政制度等審議会財政制度分科会(以下「財政審」という。)において提出された資料によれば,「冬季加算と光熱費(冬季増加額)の地域差」(なお,「冬季増加額」とは実際の増加額であり,「冬季加算」とは異なる。)については,「光熱費(冬季増加額)の地域差は最大でも2倍弱であるのに対し,冬季加算は,北海道,東北,北陸では4倍以上となっている。」との記載があり,「生活保護世帯の光熱費(冬季増加額)」の実績については,北海道の冬季加算額が月額「25,642」円であるのに,光熱費(冬季増加額)は月額「8,430」円にすぎないことから,「生活保護世帯の光熱費(冬季増加額)は全国的に冬季加算額を下回っており,特に北海道,東北,北陸で乖離が大きくなっている。」「冬季加算は使途が限定されていないため,本来の趣旨とは別の支出に充てられている可能性があり,見直しが必要。」などと指摘がされている。
 しかし,上記財政審において提出された資料には,以下の問題点がある。
 まず第1に,データの整理が恣意的である。
 北海道,東北等の寒冷地では,暖房を要する期間は少なくとも10月から6月であり,財政審資料の想定のように同一地域内で11月から3月の所要光熱費の平均額と4月から10月の平均差を求めても,後者にも相当の暖房費が含まれているため,実態よりも光熱費の冬季増加額が過少に算出されることになる。実際,札幌の暖房の消費量は他の主要都市の約5倍,北海道の家庭用灯油の世帯別年間購入量は全国平均の約4.8倍となっているのである。
 このような実態をみれば,北海道地区の冬季加算が,他地域に比べて不相当に過大であるとはいえない。
 第2に,寒冷地において冬季に増加する費用は,光熱費だけではない。寒冷地においては,灯油代や日照時間の短縮による電気点灯時間の延長等光熱費の増加に加え,暖房の方法として用いるストーブ,ファンヒーター,こたつ,カーペット・電気毛布の設置・購入費用,除雪作業委託費用,防寒用具の購入費用等さまざまな費用がかかるため,光熱費だけではなく,このような消費支出全体をみて,冬季加算の額の妥当性を論じるべきである。
 第3に,九州・沖縄において,冬季加算額が光熱費の冬季増加額を上回っているとしても,夏季に多額の冷房費が発生することを考慮すれば,必ずしも冬季加算が不相当であるという根拠にはならない。
 冬季加算については,社会保障審議会生活保護基準部会で検証作業を行うこととされているが,現在そこで,十分な審議が行われているとはいえない状況にある。
 これでは,骨太方針2014およびこれに基づく概算要求基準は,結局生活保護費を削減するという結論先にありきといわざるを得ない。
 また,骨太方針2014が,社会保障に関する国の責務を「自助・自立のための環境整備」に矮小化し,社会保障給付を「効率化・適正化」するという名目の下に,安易に削減することは,憲法25条1項で,すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し,同条2項で,そのために,国に対し,社会保障を増進する責務を課していることに反するものであり,「自助・自立」「効率化・適正化」を過度に強調して,必要な社会保障に関する国の責務を後退させることがあってはならない。
 よって,当会は,骨太方針2014(社会保障改革部分)により,健康で文化的な最低限度の生活の内容について十分な検証がなされることなく,冬季加算の見直しが行われようとしていることに対し,強く反対する。

2014(平成26)年10月21日
札幌弁護士会
会長  田村 智幸

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