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2012/10/31

北海道弁護士会連合会定期大会記念シンポジウム 「再生可能エネルギー基地北海道-北海道の新たなる可能性-」報告

弁護士 芦田 和真

公害対策・環境保全委員会


平成24年7月20日(金),ロイトン札幌において北海道弁護士会連合会定期大会記念シンポジウムとして,「再生可能エネルギー基地北海道-北海道の新たなる可能性-」が開催されましたので,ご報告します。

1 はじめに
再生可能エネルギーとは,太陽光,太陽熱,風力,水力,地熱,農作物残渣や家畜の排泄物・林地残材・食品廃棄物などの生物資源(バイオマス)等,自然界で繰り返し起こる現象から取り出すことができ,枯渇することなく持続的に利用できるエネルギーのことです。

昨年の東日本大震災以降,日本における原子力発電所の危険性が次々と明らかとなり,全国規模で原発の速やかなる撤廃及び代替エネルギーの早期普及の機運が高まりつつあります。

とりわけ北海道には気象条件,人口密度等の諸条件から,再生可能エネルギー資源が豊富に存在すると言われており,今回のシンポジウムにおいてはそうした北海道の新たなる可能性にスポットを当て,再生可能エネルギー基地としてどれだけの未来があるのかを専門家を招いてご報告及びディスカッションをしていただきました。

当日は,午前9時という早めの開催にもかかわらず,20代から70代まで幅広い世代から250人以上もご参加くださいました。

2 基調報告

はじめに,高杉眞委員(札幌弁護士会所属)より基調報告が行われました。

まず道内の事例として稚内のメガソーラー発電所と宗谷岬ウィンドファームの紹介がされました。稚内を含む道北地域は北海道でも有数の再生可能エネルギー資源が豊富な都市であり,太陽光,風力,バイオマス,雪氷熱等再生可能エネルギーの普及促進に精力的に取り組んでいる地域です。

中でも,メガソーラー発電所は5メガワットの発電容量を誇り国内でも有数の発電所として機能しており,昨年度の収支は約1500万円の黒字となっているとのことでした。

宗谷岬の大規模ウィンドファームには,現在57基の風車が設置されており,発電容量は実に57メガワットに上ります。発電効率は採算の取れる20%を優に超え,稚内市の全消費電力量の6ないし7割に至るほどの優秀な成績を収めているとのことでした。

次に,海外の事例としてドイツとスペインの再生可能エネルギーの普及状況について視察報告がされました。

まずドイツでは,環境政策に力を入れているザクセンハルツ州のダルデスハイムという地方都市の事例が報告されました。ダルデスハイムには風車が31基ありますが,地域住民の共同出資という形を取っており,全量固定価格買取り制度によって出資者には年8%の配当が保障されています。また維持管理に地域住民が雇用されており,雇用創出にも効果を挙げており,再生可能エネルギーが地域の経済を活性化させている好例であるとのことでした。

次にスペインですが,スペインでは2011年の国内総発電量の約32%が水力,風力,太陽,バイオマス等の再生可能エネルギーで賄われているなど,有数の再生可能エネルギー推進国家です。

スペインでは,国内の送電網が一括制御されており,必要となる電力量を瞬時にコンピュータで算出し,どこの発電所をどれだけ稼動させて電気を確保するか判断し,全国の発電量と送電網を制御しています。こうすることで,気象条件に左右されがちな再生可能エネルギーであっても,全体として安定して電気を供給することが可能になっています。今後は,2020年時点で発電量の40%を再生可能エネルギー由来とする計画が進められているとのことです。

三つ目に,木質バイオマスを利用した熱エネルギーについての報告がされました。

北海道では,足寄町や津別町等林業が盛んな自治体が多く,残材やおが屑を木質チップ,ペレットに加工して販売し,公共施設を中心に熱エネルギーとして利用する取り組みが行われています。こうした木質バイオマスは,地域にある木質資源を用いて化石燃料を代替するため,それまで大手の石油会社に支払っていた化石燃料コストが地域に還元することになる上,新たな地域の雇用を創出する効果もあり,地域の活性化に繋がる産業として期待されます。

四つ目に,ドイツのフライアムト村における畜産バイオマスの利用について報告されました。フライアムト村の農家では,農業の傍ら,家畜の糞尿と牧草を混ぜて発酵させ,メタンガスを発生させてエンジンで燃やして発電機を作動させて電気を作り,更にエンジンの余熱で温水を作り,循環パイプを使って地域内に提供しています(コージェネレーション)。

この村では,木質バイオマスによる熱エネルギーの供給や風力発電も盛んであり,地域が一体となって様々な再生可能エネルギーを利用しているとのことでした。

ドイツとスペインの再生可能エネルギーの普及状況の報告を比較すると,ドイツでは小規模な地域自治体での効率的なエネルギー利用,特にバイオマスによる熱エネルギーが多く普及しているのに対し(勿論,ドイツでも北海における大規模風力発電などもありますが),スペインでは国家規模で電力を管理し,大資本が太陽光や風力などの再生可能エネルギー導入をどんどん普及させているという印象でした。

一口に再生可能エネルギー推進と言っても様々な方法があり,北海道にとってどちらが相応しいのか考えさせられる基調報告でした。