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2012/10/31

北海道弁護士会連合会定期大会記念シンポジウム 「再生可能エネルギー基地北海道-北海道の新たなる可能性-」報告

弁護士 芦田 和真

公害対策・環境保全委員会

3 パネリスト報告
続いて,3人のパネリストによるプレゼンテーションが行われました。


一人目は,梶山恵司氏(元内閣官房国家戦略室員・内閣審議官,現富士通想見主任研究員)で,日本におけるグリーン成長(環境保護と経済成長の両立)の潜在性というテーマで講演をいただきました。

まず,これまでの日本においては,原子力発電の依存度が高まりこの20年でエネルギー効率が著しく悪化し,GDPも下降していることが指摘されました。他方,ドイツにおいては2000年代に入り本格的に再生可能エネルギーの普及に取り組み,固定価格買取り制度等を実施した結果,再生可能エネルギーの普及が急速に高まる一方で,GDPが順調に伸びているということで,グリーン成長の成功例として評価できると示しました。

このように,再生可能エネルギーは国家を挙げて計画的に取り組めば経済成長をも実現できる膨大なビジネスチャンスであるとも言え,環境資源の豊富な日本でこそ実現可能であるとのことでした。

そのためには,脱原発によるエネルギー効率の向上,エネルギー消費制限,地域分散型の再生可能エネルギー普及,及びそのための技術・理論の整理,知見の共有化等の条件を整備が必要であるとのことでした。

たとえば,ドイツでグリーン成長が成功した大きな切っ掛けの一つに固定価格買取り制度の実施があり,今後日本でも実施されることでグリーン成長の実現にとって大きなインパクトになるとのことでした(本シンポジウム時は実施前でした)。

他方,昨今日本では太陽光パネルの設置がどんどん普及してきていますが,各企業が独自に行っているだけで情報や技術の共有が無く,極めて非効率な状態に陥っていることを指摘され,これらの技術・知見の共有化が急務であると指摘されていました。

二人目は,大友詔雄氏(自然エネルギー研究センター長)で,北海道における自然エネルギーの循環型社会への展望について講演をいただきました。一例として,芦別市内のホテルにおいて暖房設備を重油からペレットボイラーに切り換えたことで,それまで5,000万円以上市外に流出していたコストが,1億7,000万円以上を市内に留保させる結果となるという大きな成果を収めた事例や,足寄町において役場にペレットボイラーを設置することで,139人(住民の約4%)もの新たな雇用を創出したという事例が報告されました。

再生可能エネルギーというと大規模資本の主導による風力発電や太陽光発電が注目されがちですが,こと北海道においては豊富な木材資源があり,これを地域内で熱エネルギーとして活用することで地域の経済活性化・雇用創出に繋がる可能性があるとのことでした。


三人目は,鈴木亨氏(NPO法人北海道グリーンファンド理事長)で,風力発電事業の取り組みについて講演をいただきました。鈴木氏は,日本初の市民出資型の風力発電事業を行い,市民風車のパイオニアとして各地の取り組みを支援されています。

北海道では石狩市や浜頓別町に合計4機の風車を設置されています。

市民風車の場合,市民の出資により事業を運営することから,採算性を非常に重視しており,場所の選定,風況調査を厳格に行い,安定した風力が得られる場所を十分に選定した上で着工するとのことです。これにより,現在では出資者への配当利回りが2.5%を保っており事業は好調であるとのことです。自治体主導の風力発電事業の多くが赤字であるのに比べて,大変なご健闘振りと言えます。

従来の日本における再生可能エネルギーに対する取り組み方は,企業の営利活動の一環として行うものが殆どであり,市民の自発的・自覚的な参加は無く,また参加する手段もありませんでした。北海道グリーンファンドは,そうした状況を憂い,ヨーロッパのように市民が積極的に発電事業に関われる仕組みを作ることで,地域の活性化を促進させ,引いては日本のエネルギー政策の転換をも目指しているとのことです。

基調報告でのドイツの農村の事例のように,地域が再生可能エネルギーに熱心に取り組むことで,グリーン成長を実現させているケースもあり,北海道グリーンファンドは日本におけるこうした活動の嚆矢となることでしょう。