現在の位置: ホーム > 札幌弁護士会とは > 声明・意見書(2009年度) > 2009/07/16

声明・意見書2009年度

前の声明へ 一覧へ戻る 次の声明へ

司法修習生に対する給費制の存続を求める声明

 戦後の司法修習制度の開始以来実施されてきた司法修習生に対して国が給与を支給する制度(以下「給費制」という。)は、2004年12月の裁判所法の改正により、2010年10月をもって廃止され、同年11月以降、希望する者に対して国が修習資金を貸与する制度(以下「貸与制」という。)に移行する。

 給費制から貸与制への移行は、一連の司法制度改革に際し、国家公務員の身分を有しない者に対する給与の支給が異例の取扱いであること、司法修習が司法修習生の法曹資格取得のためのものであること、給費制導入時と比較して法曹人口の大幅増加により社会情勢が変化したことなどを理由とするものである。

 一方、法科大学院制度は、21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊かな法曹を養成するための中核を成す制度として、実践的な教育を行うことを目的として発足したが、発足から5年を経た現在、志願者の減少傾向が見られ、当初期待されていた法学部以外の学部の出身者や社会人等の入学が困難となりつつある。これは、法科大学院で教育を受けるため少なからぬ費用がかかることに加え、司法試験の合格率が当初の想定よりも低下し、また、法曹人口増に伴う就職難等の問題があるため、法科大学院での教育を修了した後、司法試験に合格し、実際に法曹となって収入を得るようになるまでの間に、多額の経済的負担を覚悟しなければならないことから、法科大学院に有為な人材が集まりにくくなっていることを示している。

 このような状況の下で、2010年11月から貸与制に移行すれば、司法修習期間中の経済的負担から、有為な人材が法曹となることを断念する事態も懸念される。

 そもそも法曹は法の支配を実現するために必要な人的資源であり、その養成は国の責務であって、資力の有無にかかわらず社会の様々な分野から多様な人材が法科大学院に吸収されるよう必要な施策が講じられるべきものである。

 前記裁判所法の改正に際しても、衆参両議院附帯決議が行われ、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることのないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。また、医師養成制度においては、2004年から医師国家試験に合格した後2年間の臨床研修が義務付けられ、臨床研修医に対する適正な給与の支払を確保するため、指定医療機関に対する国庫補助制度が導入されたところである。

 以上のとおり、法科大学院をはじめとする法曹養成制度の現状や医師に対する新たな臨床研修制度の運用状況に照らし、2010年11月以降、貸与制に移行することは不相当であるから、給費制を存続させるため、国会、政府及び最高裁判所は、早急に所要の措置を講ずるべきである。

2009年7月14日
北海道大学法科大学院長  松久 三四彦
北海学園大学 法務研究科長  丸山 治
札幌弁護士会 会長  高崎 暢

前の声明へ 一覧へ戻る 次の声明へ

このページのトップへ