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声明・意見書2009年度

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「これからの法テラス情報提供業務について(案)」に対する意見書

平成21年11月10日

日本弁護士連合会
会 長 宮﨑 誠 殿

札幌弁護士会 会 長 高崎 暢

 平成21年7月22日付で日本司法支援センターより各地方事務所長宛に提案されている「これからの法テラス情報提供業務について(案)」(以下、「これからの情報提供」という)に関して以下のとおり意見を述べる。

  1. 基本的な考え方について
      標記「これからの情報提供」については、日本司法支援センター推進本部情報提供業務対応チームより本年9月10日付で意見書(案)が作成されている。同意見書の骨子は、第1に、電話対応は原則としてコールセンター(以下、「CC」という)に集中させるとの方向性には疑問があり、各地の実情に従って、CCと地方事務所とが一体となって情報提供を行うのが利用者の便宜にかなうとする点、第2に、情報提供業務において、「具体的な解決の示唆となるような情報を教示できる」ようにすることは、法律相談に該当する可能性があり、総合法律支援法30条1項の許容範囲を超えるものであるとの点にある。
      当会においても、対応チーム意見書の上記骨子については基本的には賛成である。 以下、簡単に理由を述べる。
  2. CCへの電話対応の集中化について
      地方事務所は、言うまでもなく日本司法支援センターの地方拠点であり、地元関係機関等との間で相互に密接な情報交換が求められ、かつ実際に行われている。このように、地元関係機関等との関係強化が高まれば高まるほど、地方事務所の情報提供窓口への問い合わせも増加するのは当然である。他方、利用する側においても、このような日々地域情報に接している機関に対して問い合わせを行いたいとの要望が出るのがむしろ自然である。事実、CCよりも地方事務所への問い合わせ件数の方が多いというのが現状であり、かかる利用者のオーダーも重視されて然るべきである。また、CCに集中化させる方式だと、地方事務所対応が相当と判断された場合、地方事務所へ転送されることになるが、そこでは利用者に二重に説明を強いることになりかねず、利用者にとって二度手間になる危険がある。
      これに対して、「これからの情報提供」では、(1)上質の情報提供を行うためにはCCへの電話集中が必要、(2)地方事務所の電話が繋がらない状況の回避、(3)国費を投じて運営される組織であって画一化・効率化が求められる、(4)CCがある状態において、地方事務所での電話対応の業務量増加のみに応じて窓口対応専門職員を増加させることは納税者の理解が得られない、(5)夜間利用や土日利用の利便性、(6)地方事務所では面談対応を中心としたアクティブ・アシスタンスを重視すべきである等の理由から、CCへの電話対応の集中化が相当であるとされている。
      しかし、かかる理由はいずれも相当ではない。
      (1)ついては、そもそも、CCイコール上質との前提自体の根拠が不明である。
      (2)については、地方事務所窓口へは、電話が繋がらないだけの利用者からの現実的需要があることを意味するものである。また、地方事務所に対する需要に応じた予算、人的体勢が未整備であることもその要因となっているものと認められるのであって、CCへの集中化以前に、電話が繋がるような体勢作りを検討したのか、という点が問われなければならない。
      (3)については、前提として情報提供業務の充実化やサービス向上を宣言している以上、効率化を論ずるとしても、少なくとも金銭的・抽象的効率論だけでは評価として不十分と言わざるを得ないのであって、業務の充実、サービス向上も考慮した多面的見地から、具体的な比較検討がなされなければならない。また、地方の実情に即した情報提供であれば、むしろ形式的な画一性以上のメリットが認められるはずである。
      (4)については、確かに予算増額という事態になれば、相当な理由が必要ではある。しかし、地方事務所における情報提供業務の重大性、及び予算・人員体勢が追いつかない程の現実の需要があることなどに鑑みれば、情報提供専門職員の増員については、国民の理解は比較的得やすいのではないだろうか。これに対して、CC予算については、予算に見合った実績が伴っていない可能性があり、国民の視点から見れば、CC予算と地方事務所情報提供窓口予算との調整という対応も当然視野に入れて検討されるべきである。
      (5)については、まず夜間及び土日利用の実態についての検証が必要である。また、夜間・土日対応については、利便性が求められるとしたら、かかる時間外対応に限ってCCで集約することでも十分対応が可能であると言える。
      (6)については、アクティブ・アシスタンスとして列挙されている事項には、各地方事務所において既に通常業務として行われている事項やボランティアグループの創設などのように相当性と必要性に疑問のある事項等が混在している。このように、アクティブ・アシスタンス自体が、その理念及び有用性について、さらなる議論が必要な概念である以上、かかるアクティブ・アシスタンスを地方事務所での電話による情報提供業務に優先させる合理性は認められない。
      以上のとおり、CCへ電話対応を集中化させる案については、合理的根拠があるものとは認められないので、賛成出来ない。
  3. 情報提供業務における「具体的な解決の示唆」について
      この点については、総合法律支援法30条1項が存在する以上、情報提供業務対応チーム意見書が指摘するとおり、「情報提供業務」と「法律相談」とは峻別された形で行われるべきであって、CCに「法律相談」に準じた役割を与えることは相当ではない。
  4. 貴連合会に対する要望事項
    (1)これからの情報提供業務に関する具体的ビジョンの確立について
      言うまでもなく、「今後の日本司法支援センターの情報提供業務のあり方」は、同 センターの次期中期目標や中期計画策定にも大きな影響を及ぼす検討課題である。また、同センターが、いわゆる「司法ネット」構想の中核的運営主体であることに鑑みれば、かかる「あり方」は、単に同センター内の業務方針の問題にとどまるものではなく、今後の司法ネット構想の方向性に関わる重要な問題と位置づけられる。
      このような情報提供業務の重要性に鑑みれば、貴連合会においても、同業務のあり方に関する中長期的な視点に立った具体的ビジョンを確立しておくことが必要不可欠である。
    (2)単位弁護士会に対する意見照会の必要性について
      加えて、単位弁護士会は、日本司法支援センターの単なる情報提供先と位置づけられるだけではなく、法律上も連携、補完という関係にあり、同センターが地方の実情に留意した運営を行う上で、重要な位置づけがなされている。また、各地方事務所・各単位会では、規模、地域特性など、それぞれの実情に応じた体勢が取られており、かかる地方の実情についても充分に配慮する必要がある。
      上記同センターの情報提供業務の重要性、同業務における単位弁護士会の位置づけ、及び地方の実情の配慮の必要性等に鑑みれば、本検討課題については、単位弁護士会の意見集約は不可欠であり、貴連合会から単位弁護士会に対する意見照会がなされて然るべきである。
    (3)資料の取り寄せ及び検証の必要性について
      本件では、情報提供業務の制度設計及び情報提供業務の質的向上等が検討対象となっている。かかる制度設計等は、CCと地方事務所における情報提供業務に関する各種統計資料等を総合的に判断して行われなければならない。具体的には、それぞれの扱う取扱件数(各種データによって数字にばらつきがある模様である)、具体的予算の内容、人的配置体勢の詳細、各制度毎の利用者ニーズ情報(苦情案件・お褒め案件の件数とその具体的内容)、情報提供先への追跡調査結果等の前提資料の検討が必要であり、かつ、かかる資料に基づいた各種検証作業が必要である。
      よって、貴連合会において、上記資料の取り寄せを行った上で、然るべき部署において検証した結果とともに、参考資料として各単位会に配布されたい。

以 上

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